アニメのシナリオができると、次は絵コンテです。絵コンテはシナリオをもとに設計するのですが、ときどき「?」と思うシナリオに出会うことがあります。「シナリオ会議で何が起きた?」とその瞬間、いろいろな想像があたまのなかを駆けめぐります。会議には、監督とシナリオライターのほか、メーカー、代理店、出版、放送局、制作会社それぞれのプロデューサーが出席するため、議論百出となります。テレビシリーズの場合、スポンサーの意向も絡み、すべてのオーダーを受け入れてしまうと、シナリオの段階でとんでもないことが起きます。交通整理に失敗すると渋滞や玉突き事故が発生シナリオ執筆から会議を経て、絵コンテづくりには紆余曲折の道のりがある「このキャラは絶対に殺さないで欲しい」「視聴率テコ入れのためには、そのキャラが死んでくれると…」「でも、人気キャラだから残したほうがいいと思う」スポンサーを代表するプロデューサーたちには、それぞれの思惑があります。矛盾するオーダーをうまくさばいてシナリオを無事着陸させるのは大変です。シナリオづくりが成功するかどうかは、プロデューサーからの注文を折り込みながらも、いかに監督のコンセプトに則った世界を描けるかにかかっています。ビジネスパーソンのみなさんも、会議で苦労されることが少なくないと思います。出席者によって会議の成り行きが悪化することはよくあることで、アニメの会議も同じです。コトと次第によってはシナリオの命運が大きく分かれます。シリーズ構成を担当する知人のシナリオライターは、「シナリオ会議は交通整理」とよく言っていましたが、まさにその通り。ストーリーが流れるようにスムーズに終わるときもあれば、行き詰って渋滞になることもあります。ときには玉突き事故が起きて、プロットが空中分解寸前になったりします。稿がかさむにつれ、キャラが別人格になり、張っておいた伏線が回収できず、とってつけたような急展開の結末になったりします。「はい、とりあえずこれでOKにします!」監督の宣言とともに、時間切れで問題が曖昧になったままのシナリオが、次の工程に放流されることもあったりなかったり…。設計上の問題は現場の職人が穴埋めしているシナリオの行き先は、絵コンテを描くコンテマン。シナリオからストーリーとコンセプトを汲みとって、アニメの青写真をつくることが仕事です。もしも問題が解決されないままのバトンを受け取ってしまったコンテマンは、シナリオを前にガマの油状態に陥ります。「あれ?この伏線、どこかに消えた…」「最後の人数があわないなあ」「キャラ設定が途中で変わっているんだけど?」コンテを描く前の打ち合わせである「コンテ打ち」で、監督とコンテマンはシナリオの問題点を洗い出します。発見された問題点は、シナリオの微修正や、ときには新しいシーンを加えることによって、その場で対応方法を決めます。しかし実際にコンテを描いてみると、また別の問題が見つかることも。昔、家を改築したときに、建築士が計算したはずなのに、工事を終えてみると増築部分から雨漏りがしたり、床が傾いたことがありました。アニメも同じで、いくらコンテ打ちでシナリオの穴を補修しても、何かが漏れることがあるのです。これを現場でなんとかして埋めるのも、コンテマンの仕事。夜中の水漏れ修理です。コンテマンはそっとため息をつきつつ、深夜に黙々とコンテと格闘しています。(数井浩子)
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