「もったいない思想」が失敗の処理を先送りしている

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   先日、NHKのテレビ番組に起業を目指す10代の若者が登場していました。物理が大好きで高等専門学校に進むも、ビジネスに興味を持って学校を飛び出す決心をしたのだそうです。

   これまで学校や勉強にかけてきた時間やお金を「もったいない」と考えて卒業を待つよりも、一刻も早く起業した方がよいと考えたとのこと。母親は反対したが、家出して単身スーツケース1つで上京。「自分の人生。周りに迷惑をかけても結果成功すればいい」と決意を語っていました。自分はそこまで熟考する高校生ではなかったな、と大いに感心させられました。

取り返しのつかない「サンクコスト」は考慮に入れるな

取り返しのつかないことを思い悩んでばかりいてもしようがない
取り返しのつかないことを思い悩んでばかりいてもしようがない

   番組では、他の10代の女性から「決断する際に取り返しのつかない方を選ぶ」という言葉も飛び出していました。高専をやめた彼もまだ10代なので「取り返しがつかない決断をする」と言っても、過去の蓄積も小さく、切り捨てる過去もたかが知れているでしょう。しかし大人になるにつれ、過去の損を切り、将来に向かって決断することができにくくなります。

   そればかりか、過去の蓄積にばかり意識が働き、失敗を取り返そうとしてかえって泥沼にはまり込むことが多いものです。取り返しのつかない過去はいったん「損切り」する勇気を持つことが、合理的な判断を行う際には欠かせません。

   過去に費やしたものの、その後どのような行動によっても回収することができない費用のことを「埋没費用」、あるいは「サンクコスト」といいます。

   何らかの意思決定をする際、合理的な判断を行うためには、評価時点以降に起こりうる支出と、期待できる利益だけを基準として判断すべきです。取り返しのつかないサンクコストは、一切考慮に入れてはならないはずです。

   みなさんの会社でも、多額の費用をかけたプロジェクトが、期待していた成果を出せないと分かる場合があるでしょう。そのとき「これまでかけたお金がもったいない」という発想で安易に追加投資をすると、余計に傷口を広げます。

   これまでかけたお金は、どうやっても取り返しのつかないのだから、これからかけるお金と、これから得られる成果のみに焦点を当てて、意思決定を行うべきです。これは投資の世界では「損切り」といって当たり前に行われていることです。

肩の力を抜いて再スタートすればいい

   しかし、この「損切り」は日本企業ではなかなか行われません。その理由は、自らの意思決定の責任を回避する「前例尊重主義」にあるのかもしれません。

   現時点で最も合理的な判断をすることではなく、過去にそのプロジェクトに関わった人や前任者にどう申し訳をするのかという考えが働いてしまうので、失敗は表ざたにされず、決断は先送りされます。

   建設途中で中止になったダムにかけた費用や、観に行かなかった払い戻し不可のチケット、みんなサンクコストです。「損切り」ができない人が株式投資をおこなったら、株価が下がっていくのがわかっても、手放すことができずに原価割れをしたまま持ち続けるのではないでしょうか。

   確かに、損を切ってしまうことは過去の自分の失敗を認めてしまうことにもなり、言うほど簡単にできることではありません。「もったいない思想」がよいものとされてきたことも影響しているのかもしれません。

   私たちに必要なのは、損を切ることで受けるダメージに対して、耐性を準備することではないでしょうか。サンクコストの考え方を確認し、「ここで止めたら楽になれる。また再スタートすればいいだけだ」と気持ちを楽にするためのイメージトレーニングが大切です。

   自分が背負ってしまった負の遺産で苦しまないよう、肩の力を抜くことが求められている人は、思いのほか多いのではないでしょうか。(高城幸司)

*先日、学研パブリッシングから『人事コンサルタントが明かす「ムダ」のない仕事のやり方』を出版しました。努力が正しく評価される「80のヒント」をあげています。ご一読いただければ幸いです。
高城幸司(たかぎ・こうじ)
1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)。「高城幸司の社長ブログ」
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