できる幹部候補が抜けていく… 給与は業界トップクラスのはずなのに

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   大手メーカーの販売代理店をチェーン展開するB社。その会社の顧問を務める先輩から久しぶりに電話がありました。社長の悩みを聞いてほしいというのです。

   B社は10年ほど前に家業から独立し、40台半ばで現社長が立ち上げた会社。業績好調で、本部からも成績優秀代理店として表彰されています。実績重視の給与体系で、成績上位のスタッフは業界でもトップクラスの給与水準にあるようです。

   店舗数を10にまで伸ばしてきた社長の悩みは、「最近、会社を牽引してきた幹部候補が、歯が抜けるように辞めていく」というものでした。

社長「どうやって引き止めればいいものか」

これだけよい条件で待遇してるのになぜ…
これだけよい条件で待遇してるのになぜ…
「この1年でも、3人ほどが抜けていまして…。理由はよく分からないけれど、明らかにウチより処遇の下がる会社に転職しているんですよ」

   さらに困ったことに、近い将来ナンバー2に、と思っている現場統括のH店長までもが転職を考えている雰囲気があるのだとか。どうやって彼をはじめとする優秀な従業員を引き止めたらいいものか。

   社長は明るい性格で、至って温厚。辞めた3人や他の社員が社長と対立しているとか、評価や処遇に不満があるといった事実はないようでした。しかし、何か共通した理由があるはずです。

   私はコンサルティングの予備調査と称して、H店長との面談をお願いしました。40代半ばで、転職6年目。年俸は約1千万円で業界トップクラスであることは間違いなく、処遇に不満はない様子です。私はあえて、いきなり核心をついてみました。

「ここ1年で、幹部候補社員が3人辞めていますよね。理由は何だと思いますか」

   するとH店長は「本人たちから直接は聞いてはいませんが」と断りながら、こんなことを明かしてくれました。「彼らの考えは、なんとなく分かります。若いバイトなら、明るく楽しい職場で給与も悪くなければそれでいいですよね。でも、中堅以上の社員はそうはいかない。自分の将来が不安だし、中途半端で成長が止まってしまうのも嫌ですから…」

   ハッキリと口に出してこそ言わなかったものの、彼は私に「このままなら私も辞めますよ」と訴えかけているように聞こえました。

「成長するビジョン」がないと不安になってしまうもの

   ヒアリング後、H店長の将来について思いを馳せてみました。B社がいくら販売代理店を手広くやっているとはいえ、メーカーに大きく左右される経営であることに変わりはない。いくら出世しても、店長以上のポストはほとんどない。

   自分の力に自信を持ち、「もっと成長したい」と思う人なら、この会社では物足りなくなり、一時的に給与が下がっても新たな挑戦の場が欲しくなるのも自然かもしれません。

   私はH店長とのやりとりを社長に伝え、考えをうかがいました。そこで分かったことは、社長自身が、いつしか自分の「ビジョン」を見失っていた、と自覚していたことでした。

「10年前に独立したときは、狭い業界でもいいから日本一を目指したい、できれば上場企業にしたいと思っていたなあ…。でもここ数年は、本部に認められて店舗網を拡大することにばかり注力してしまった」

   もしも会社を上場させるとしたら、既存の代理店を伸長しつつ、新たな収益の柱を作らなければなりません。隣接する別商品の代理店事業を組み合わせ、自社がイニシアチブを取れる代理店以外の事業を成功させることも欠かせないでしょう。

   その後社長は、H店長を中心に幹部候補をメンバーに「5年以内の上場をめざす」というビジョンを掲げた会議を組成し、具体的目標と戦略を検討し始めました。

   あれから3年、H氏は取締役となり、B社の挑戦は順調に進んでいるようです。予定通り上場できるかどうかは微妙ですが、問題はそこではなく、社員が共有できる目標に向かっていくことに意義があるのではないか、と私は思っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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