部下に仕事を「任せる」ということ 上司に求められる2つの視点

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   私は事業会社(カレー店とコインランドリー)と経営コンサルタントの「二足のわらじ」を履いて活動をしています。ある日、カレー店の取引先である食品卸会社を訪ねたところ、A社長が唐突にこんな話をしてきました。

「うちは役員から下の管理職層が育たなくて困っているんですよ。以前、中小企業診断士に会社の指導をしてもらったとき、『あなたは何でも自分で決めずに部下に任せなさい』と言われて実行したのですが、なかなかうまく行かないもので…」

突然「お前らやってみろ」では部下は手も足も出ない

責任範囲を決めたか、必要な権限を与えたか
責任範囲を決めたか、必要な権限を与えたか

   私が経営コンサルタントをしていると知った社長が、つい悩みを明かしてしまったというわけです。何の準備もしていなかった私は「オーナー企業ではどこでも、管理者育成と権限委譲には悩んでいますよ」とだけ言って、お茶を濁してしまいました。

   確かにA社長の会社のスタッフは、取引先の中でもいまひとつ活気が感じられないと気になっていました。そこで後日訪問してきたB部長に、会社の実態をそれとなく尋ねてみることにしました。

   最初は遠慮がちな口調でしたが、B部長は徐々にホンネを漏らし始めました。彼のA社長像は「とにかくワンマン」「何ごとも結局最後は自分で決めたがる」「部下に任せると宣言したものの1か月くらいで頓挫した」などなど。

   社長の権限が強大なこういう会社では、どうせ最後は社長の指示に従わざるを得ないので、自分の頭で考えて行動するのが損と思われがちです。下手に動かず「社長の指示が出るまで待った方が無駄な仕事をしないで済む」と思っているのでしょう。

   B部長も「意見を出したところで否定されるのがオチなので、何かあったときには社長の結論をいかに引き出すかが我々の仕事」と答えてくれました。そんな社長が、一時期でも部下に任せることが本当にできたのでしょうか。

「いや、無理でしたね。診断士のアドバイス後は、確かに『お前らやってみろ』と言われたこともありました。しかし社長の意向も分からないまま丸投げされても、どう判断すればよいか分かりません。そのうち社長は『やっぱり任せておけない』と、あれこれ指示を出し始めました。我々には無駄な労力が一時的に増えただけでした」

権限と責任を与え「人を育てる」視点が欠かせない

   A社長は「部下に任せる」ことによって自分に何が求められるのか、よく理解していなかったようです。

   「部下に任せる」ことは、単に「やれ」と指示して終わりではないのです。成果の責任範囲を上司があらかじめ決めたうえ、部下に責任に見合った権限を与えて具体的なやり方は委ねなければなりません。そうしなければ、仕事の経験が部下のものになりません。

   A社長が「お前らやってみろ」といったとき、あらかじめ成果の責任範囲を決めていたでしょうか。権限を与えて、具体的なやり方を委ねたでしょうか。どちらも決めずに単に「やってみろ」では、部下は手も足も出ないでしょう。

   また、「仕事をさせながら人を育てる」という視点も必要です。これまで社長が全部自分で決めてきたのだから、急に部下にやらせてもできるようにはなりません。

   私は、相手の力量をみてやらせる仕事を選び、進行を気にしながらフォローするやり方を「任せる」、自分の仕事をただ丸投げするのを「振る」という言葉の使い分けをしています。その話をB部長にしたところ、

「それは耳が痛い話です。我々も社長と同じように『振る』仕事しかさせていませんから」

と明かしてくれました。社長のスタイルが部下に伝わり、会社全体が指示待ち文化になっているわけで、組織風土はかなり重症のようです。また近々A社長にお目にかかる予定があるので、今度はかなり突っ込んだお話をしなくてはいけないと思っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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