カンボジアで「50万円起業」 グローバル化がもたらす新しい自由
先日、カンボジアのプノンペンに行ってきました。繁華街をぶらぶらしていると、漫画喫茶を発見。アニメのキャラのポスターが貼ってあり、貸出用のコスプレの衣装を着たマネキンが店頭から見えます。
そこには日本の漫画が10棚以上、ぎっしりと置いてありました。日本語のものだけではなく、英訳された「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」なども。私が訪れたときはわずかにオープンから2日目だったというから、なんという偶然でしょうか。
プノンペンには日本人がたくさん来ていて、カフェや料理店、漫画喫茶、雑貨店などのスモールビジネスを始めている人がいます。韓国のお店も多く、「カワイイ」を押し出した韓国化粧品屋が人気でした。
日本の「独立」はあまりにカネがかかりすぎる
びっくりしたのが、その出店コストです。この漫画喫茶のあった目の前のスペースが開いていたのですが、家賃がなんと100ドル。つまり1万円足らずなのです。飲食店を開業すると違う家賃が適用されるらしく高くなりますが、それでも186ドルです。
しかも保証金などは1か月分の家賃で済むそうです。実にイージーです。これなら誰でもお店を持つことができます。
漫画喫茶のオーナーが開店にいくら要したのかは知りませんが、おそらく内装などは十数万円で済んでいるのではないでしょうか。漫画を買うお金の方が高そうです。
これが日本だったらどうでしょうか。カフェを開業したいとかクレープ屋をやりたいとか、ちょっとした飲み屋をやりたいとか、そういった小規模な店舗を夫婦だけで開業して暮らして行きたいというようなニーズは根強いように思います。
しかし、日本で店舗を持つとなると、凄まじいリスクを背負い込むことになります。店舗を借りると保証金として6か月分の家賃を取られ、さらに6か月の家賃前払いを要求されます。
20万円の家賃だったら、それだけで240万円。これに加えて、内装などをちゃんとやったりすると、1000万円単位の費用が必要です。開業費として、1500万から2000万円くらいのお金が簡単に吹っ飛んでしまうのです。
日本人は実質的にノーリスクで練習できる
脱サラや定年退職して、退職金を使って店を持ったという話がよくありますが、結局退職金のほとんどをお店の開業費につぎ込まざる得ません。
そして飲食店が成功する確率は非常に低く、何十年も続くこともめったにありません。大概は赤字で1~2年で閉めざるを得ない。そして退職金を全て失い、途方にくれるのが基本的なパターンです。
なにが言いたいかというと、いきなり日本で2000万円も投資してしまうというメンタリティが、リスク管理という観点からはヤバイということです。すべてのリスクをそこに集中してしまうのですから。
第二の人生でカフェなど飲食店を開きたい人がいるなら、まずはカンボジアで試しにやってみてもいいと思うのです。カフェの開業なら50万円もあれば十分でしょう。しかもカンボジアなら、夫婦そろって月に10万円もあれば生活できます。
いろいろ反論はあるでしょうが、これは練習です。半年くらいやって閉めてもいいし、1年で放り出してもいいし、はじめから1年限定としてもいいでしょう。どんな失敗をしても、どんなに気変わりしても、これならほとんど失うものはないはずです。
「リーンスタートアップ」というベンチャー経営手法
日本人にとっては事実上ノーリスクでできるようなもので、経験値を積むというのが大事です。いきなり2000万円かけて開業しない。50万円で試しにやってみるのです。
これは最近のベンチャーのやり方にも似ています。細かい計画を立てて1億円かけてシステムを作るのではなく、50万円くらいでエンジニアが最初のモデルをパパッと作ってしまう。
それがウケればもっと投資するし、だめならさっさと撤退。「リーンスタートアップ」とも言いますが、こういうやり方は、ほかの業態にも応用できそうです。
私は、これからの時代はふつうの個人が生きていくための方策として、スモールビジネスがもっと見直されると思っています。1億円の売上は産まないけれども、家族がそこそこ食べていけて、しかも自由な時間があって、辛い思いをしないでいいようなビジネス。
グローバル化は日本人にとって負の側面もありますが、新しい可能性も提示してくれます。カンボジアでの50万円起業というのは、グローバル化がもたらす新しい自由といえるでしょう。(大石哲之)