「報酬を減額すべきだ!」 オーナー社長に直訴した銀行出向者の慨嘆

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   銀行員時代の取引先S社に、別の取引銀行から出向していたD氏。ある事件をきっかけにS社を辞めて音信が途絶えていましたが、数年ぶりに会合で再会しました。60歳を過ぎた現在は新しい会社で、社長の右腕としてご活躍の様子でした。

   D氏は銀行時代は処遇的に恵まれませんでしたが、S社の総務部に移ってからはその知識と行動力で目をみはる仕事ぶりをみせ、社長からも厚い信頼を得ていました。私は当時、S社の総務はほとんど彼で持っている印象を受けたものです。

「社長が東南アジアに女性」のタレこみに激怒

「このままではいけない。会社のためだ」と思って直訴したのだが
「このままではいけない。会社のためだ」と思って直訴したのだが

   S社への出向から半年もすると、彼は銀行員の視点から見て「おかしい」と思うことをハッキリ言うようになりました。矛先は年下のオーナー社長にも向けられ始めました。

   重役出勤の社長に「朝はちゃんと定時に来て幹部に訓示を垂れなさい」とか、「公私混同と思われるような無駄な接待費は使わないこと」とか、口うるさく“生活指導”をしていました。

   銀行員の私にも、取引銀行も味方に引き入れようとしたのか、「いずれ上場したいと言っているのだから、今のうちに正すべきは正すように教育していますよ」と逐一報告をしてくれたものでした。

   総務担当役員のI氏は社長よりさらに年が若いこともあり、これまで意見を聞き入れられにくかったので、D氏の物言いは会社にもプラスと歓迎しているように見えたものです。

   そんな折に事件は起きました。ある社員が社長に怒られ、減俸された腹いせにD氏に社長のプライベートに関する告げ口をしたのです。

「社長は東南アジアに女性を囲っており、多額の報酬の大半をその女性につぎ込んでいる。僕は社長と海外出張して現場を見た」

   すでに社長に報酬の見直しを申し出ていたD氏は、いきなりアタマに血が上って社長室に怒鳴りこんで行ったそうです。

「海外に女性を囲うなんて、道徳的な問題は別にしても、そんな余裕がどこにあるでしょうか。そんな無駄金を使うためなら、報酬をすぐに減額すべきですよね」
「女性に会うのが目的で海外に行くのなら、旅費は自前で持ってください!」

中小経営者独特の「公私の感覚」に戸惑う

   D氏は社長相手に一気にまくしたてました。そばで聞いていたI氏は沈黙を守り、社長は一言「言いたいことは分かった。Iくんと相談して対応する」とだけ答えました。

   I氏は社長から指示を受けたわけではありませんでしたが、席に戻るとD氏を呼んで「悪いけど自宅待機をお願いします。銀行や大企業の常識が、うちのような会社では通用しないこともあります」と話しました。

   D氏は、「プライベートだろうがなんだろうが、会社に悪影響のあることは許すわけにはいきません。私は勇気を持って忠告をしたつもりですが、それを銀行の常識として片づけになるのなら仕方ない。力になれずに残念です」と返し、会社を後にしました。

   こうしてD氏の短いS社勤務は終わり、別の会社に改めて出向したのでした。その先も同じようなオーナー企業でありながら、トラブルもなく過ごしているD氏は今の心境をこう話してくれました。

「中小企業で10年過ごして分かったのは、オーナーのプライベートとビジネスの本当の関係は社長にしか分からないってこと。周りがとやかく言っちゃいかんのかなと。ビジネスそのものが、社長のプライベートから生まれているわけですから。創業時から一緒にやってきたIさんには、それが見えていたから私を即座に切ったのでしょう」

   私も銀行を去って8年。中小企業経営者との付き合いを通じて、彼らのビジネスとプライベートの線引きが、大企業経営者と大きく違うことを実感させられることがしばしばです。

   ちなみに件の女性は、ビジネスに直結する有力なパイプを持っている人物のようだと、事件後にI氏から教えてもらいました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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