社員が仕事と育児を両立できるようにと、社内に保育所を開設している企業がある。資生堂が2003年9月にオープンした施設には、安倍晋三首相が視察に訪れるなど、子育て世代を支援する対策として注目される。
ところが最近では、この「企業内保育所」の閉鎖が相次いでいるという。運営の継続上、ハードルは決して低くないようなのだ。
通勤ラッシュの乗車、スペースが狭いという難点
厚生労働省は、企業が事業所内に保育所を設置した場合に助成金を支給している。助成は1993年にスタートした。現在は設置費の限度額が2300万円に上り、運営費も年1回、5年間支払われる。
ところが、会計検査院が1993~2011年度に国が助成金を出して設置された720件の保育所を調べたところ、東日本大震災で被災したところを除いて81件が廃止または休止していることが、2013年7月30日に明らかになった。
助成金の額は8億3790万円に上る。理由としては、「乳幼児が確保できなかった」が36施設、事業主の経営状態や業績悪化が24施設となっている。また運営5年を迎える前に廃止・休止となっていた施設も多数に上った。
会社本体の業績低迷によりやむを得ず閉鎖した以外にも、設立当初の見通しが甘かったケースも少なくないようだ。神奈川県では2010年度、県内の社団法人で新たに設置された定員10人の施設に約320万円の助成金を支給したが、運営開始2年目で定員はゼロとなり、設置からわずか1年5か月余りで施設を廃止した事例を会計検査院は報告している。
それにしても、子どもが集まらずに保育所が閉鎖というのは、特に待機児童問題が深刻な大都市圏であれば意外な気がする。東京都の2013年4月1日現在の状況は、待機児童数が前年比860人増の8117人で、トップの世田谷区では884人に上る。大阪府では前年比減となったものの、1390人に達した。こういった地域では、企業内保育所が定員オーバーしてもよさそうなものだ。
「NEWSポストセブン」8月1日付の記事で、第一生命経済研究所上席主任研究員の的場康子さんは、企業内保育所は仕事中でも子どもの面倒を見られ、勤務時間に合わせて預けられる半面、都会であれば毎朝満員電車で子どもを職場に連れて行かねばならないデメリットを指摘している。
「社外の子ども」を受け入れできる規制緩和へ
このほか企業内保育所には、スペースが狭くて遊ぶ場が限られ、同年齢の友達ができないといったマイナス面もあるようだ。
企業内保育所は、いわゆる国の「認可外」の施設だ。運営費の助成金は5年間のため、6年目以降は会社が全額負担するか、保育料を値上げするかという選択に迫られる。
高額な保育料に利用者がちゅうちょすれば、人数の確保はますます難しくなる。補助のない認可外保育所となれば、月額10万円というケースもありうるからだ。企業が運営する以上、採算が厳しくなれば閉鎖の決定を下してもおかしくない。
一方で国は、企業内保育所を待機児童解消に役立てる方策を立てているようだ。8月24日付の日本経済新聞電子版によると、現状では助成金支給の要件として利用者の半数が社員の子どもでなければならないが、ひとりでも支給対象として認めるというのだ。
現状では、たとえ「空き」があってもその会社と無関係なら、場合によっては入所できないことになる。遅くとも2014年3月末までには要件が緩和されるとみられ、待機児童が多い自治体にとっては「使い勝手」がよくなった保育所を有効活用できるようになる。
企業にとっても、自社の「子育て世代」が減れば保育所の運営が厳しくなるが、外部の子どもをこれまで以上に受け入れる枠が広がれば、人数を確保しやすい。「需要と供給」をうまく結び付けられるか。