2024年 4月 20日 (土)

メンタルヘルス不全から復職した課長 係長に降格させてもよいか

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   責任感が強く有能な管理職ほど、過重労働で体調を崩しがちという説がある。上からの重いノルマをまともに引き受け、部下の尻拭いを真面目にしていたら、おかしくなってしまうのも当然だ。

   ある会社では課長が休職している間に、部下の係長が代役を引き受けられるまでに成長した。そこで彼を新たに課長に昇格させ、復職してきた課長を降格する案が浮上したが、人事担当者にはためらいがあるという。

課長は「それは弱りますよ」と言うが

――システム開発会社の人事です。営業部のA課長が、メンタルヘルス不全で1年半休職していましたが、面談の結果、だいぶよくなっているということで復職を認めることにしました。

   とはいえ、長期休職後ということもあり、当面は残業させないなどの経過措置が必要となります。A課長が休んでいる間、社内で重要なプロジェクトが走り出していますが、そこにいきなり参加するのは難しいと考え、B係長が参加しています。

   A課長が不在の間、営業部の業務はB係長が先頭になってこなしており、実質的な課長代理という働きをしています。A課長の復職後、1か月ほど経って、営業部長が人事にやってきました。

「Aさんの様子をしばらく見てきたけど、まだまだ厳しいな。その代わり現時点では、Bくんが役割を果たしてうまく機能している。まだ少し若いが、思い切ってBくんを課長にし、Aさんを係長へ降格させた方がよいと思うがどうだろう」

   翌日、A課長を人事に呼び出して面談をし、降格について打診をしました。すると、

「いやあ、それは凄くショックですね・・・。降格なんて今まで例がないでしょう? 給料も下がるのだろうし、生活設計が狂います。うーん、それは弱りますよ」

   ハッキリ言わないものの、勘弁してくれと訴えています。とはいえ、課長を2人にするわけにはいきません。こういうとき、会社としてどういう手が取りうるのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
昇格、降格には会社の人事権行使の裁量がある

   昇格、降格については法律で定められていませんが、会社を辞めさせるための嫌がらせのような権利の濫用でなければ、自由に行うことができます。会社には人事権行使の裁量があり、職務遂行能力の低下を理由に降格させることは可能です。A課長の体調も完全にはよくなっていないようですし、課長として期待される業務遂行もできていないのですから、正当な人事権の行使と認められます。

   今回のケースでは、係長に代役を任せる期間が1年半というのは長すぎた気がします。Aさんの復職前にBさんの昇格の決断をしてもよかったのではないでしょうか。ただし休職中にAさんを降格にするのは、トラブルの元にもなるので避けた方がよさそうです。無理を強いれば病気が再発するおそれもあるのですから、降格は本人のためでもあります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
病気の原因が長時間労働なら一方的な降格は難しい

   職務遂行能力により職位を決める観点から、降格はありえるものの、降格の精神的影響で病気を悪化させる可能性も考えておかなければなりません。休職理由がメンタルヘルス不全であることの配慮は必要です。課長職のままで評価・処遇を下げる方法や、係長ではなく課長代理や○○担当課長といった肩書きにするといったショックを和らげる方法も考えられます。同時に、職務遂行能力が戻れば職位や所属を戻す可能性など、希望の持てる可能性についても触れておけるとよいでしょう。

   また、病気の原因が長時間労働やハラスメントなどの業務起因性があるかどうかを十分確認しておかなければなりません。業務起因性がある場合には一方的な降格は難しく、労災の可能性も考慮しなければなりませんので、配慮の内容も幅も変わってきます。十分な配慮と本人との同意が必要です。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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