2024年 3月 19日 (火)

「何としても」「うまくやれ」は部下の不正を誘発するキーワード

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   他人に相談できない問題を抱え込んだとき、人はそこから逃れようと必死になる。そして最後は「不正を犯してでも・・・」と思い詰めてしまう人もいる。

「なんとしても目標を達成しろ!」

   上司のそんな厳しい言葉は、部下をそのような心理状態に追いやりやすい。目標が現実離れしていたり、上司が尻を叩くだけでサポートしてくれないタイプだったりすれば、なおさらだ。架空売上などの「業績偽装」という不正の背景には、そんな状況が見え隠れすることが多い。

経理担当者の「水増し」や「隠蔽」を責任者が黙認

「何がなんでも」と言われても…
「何がなんでも」と言われても…

   某金融機関が最近公表した調査報告書には、海外現地法人の責任者による業績水増しの経緯が詳しく綴られている。そこからは、経営トップ→現法責任者→担当者という「目標必達のプレッシャーの連鎖」が読み取れる。

   自らバリバリ実績を上げてきたトップが、強烈なリーダーシップのもと、「与えられた目標は必ず達成しなければならない」という社風を作り上げる。そのトップが人選した海外現法の責任者は、会社の期待を背負って赴任し、「目標を達成するまでは帰れない」という覚悟をもって異国の地で努力を重ねる。

   定期的に日本で開かれる海外現法の責任者会議でも、もっぱらトップが発言し、営業戦略から債権管理まで事細かい指示が矢継ぎ早に出される。現法では経理担当者に対して、責任者から「何がなんでも」利益を出してくれと指示が飛ぶ。

   経理担当者は責任者の意を汲んで、収益水増しや費用の隠蔽など、あれこれ知恵を絞って目標を「達成」する。責任者はそれを黙認する――。そんな流れが見えてくる。

   そもそも海外現法は、立地の点でも不正を誘発しやすい。本社から遠く離れ、慣れない土地で日本人の同僚も少ないため、孤立感を覚えやすい。単身赴任であればなおさらだろう。数少ない同僚間の関係も非常に濃くなるため、一蓮托生で不正にのめり込んでいくリスクが高まるといえるかもしれない。

   一方で、内部監査の頻度も低くなり、本社のチェックの目が行き届きにくくなりがちだ。海外現法の取締役や監査役は本社役員が兼務することも多く、取締役会も形骸化しやすい。そんな中では、不正をしても「見つからない」「バレない」という機会の認識も生じやすい。

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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