デフレもブラック企業もなくならない その時、個人がとるべき処方箋とは

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   ひょっとすると「安倍政権がデフレを終わらせ、経済を安定成長させてくれる」と期待している人は今でも多いのかもしれない。あるいは、単独で法案提出可能な議席数を確保した共産党が「ブラック企業を規制してくれる」と期待している人も少なくないのかもしれない。

   でも、残念ながら政府が解雇規制の緩和等の雇用の流動化を見送った今、日本はこれからもデフレ脱却しないし、ブラック企業もなくなるどころかますます繁栄するだろうというのが筆者の見方だ。

賃金低下あるいは横ばい→デフレという傾向は続くことだろう


   日本人の賃金は過去20年近くほぼ一貫して下がり続けている。理由は終身雇用という看板を守るため、労使が賃金より雇用死守を優先したからだ。「ウソだ」と言う人は、会社の労使交渉のやり取りを見てみるといい。きっと65歳まで雇用義務が延長された分をまかなうため、今ごろは2、30代の昇給を必死に削っている真っ最中だろう。65歳まで年金がお預けになったオジサンたちや、社内失業者の面倒を見るため、みなでカンパしあっていると考えるといい。それをやめないのだから、これからも失業率はそんなに高くもならないけれども、賃金は低下あるいは横ばい→デフレという傾向は続くことだろう。

   ブラック企業についても、以前から度々指摘しているように、その根っこは終身雇用そのものにある。これはいくら法律で規制しようとしても無理な話で、処方箋としては"終身雇用"という非現実的な規制をやめ、大手から中小企業まで守れるような無理のない法律を作るしかないのだが、それもやらないと言っているわけだから、ブラック企業もなくならない。むしろ現実には終身雇用はさらに現実とかい離して形骸化するだろうから、ますます企業のブラック化も進むだろう。

   ただし、社会全体としては無理でも、個人で状況を変える処方箋はある。それは各人で努力してキャリアアップすることだ。

   社内失業者をいっぱい抱えたまま社員同士カンパさせあうような会社はとっとと見限って、出来る人間に成果をきっちり還元してくれる実力主義型の組織に移ればいい。残業、転勤なんでもありの全体主義的会社は見捨てて、裁量付きでセルフマネジメント可能な会社に転職すればいい。

   そうすれば、自分は十分な賃金を手にしつつ、他社の従業員たちが爪に明かりをともすようにして提供してくれる安価なモノやサービスを手軽に利用できる。しかも、社内失業者はそうした企業の社員同士がカンパで支え合ってくれるのだから、失業給付を税金で負担してやる必要もない。断言するが、デフレの重力を脱した人間にとって、今ほど素晴らしいデフレ天国はない。

「何も努力しなくても豊かになれますよ」という実現できない政策

   ただし、それが可能なのはごく一部の人間だけだろう。そしてそれが出来ない多数の人たちに向けて「バラ色の未来を感じさせるけれど、けして実現できない夢のような政策」を売って歩く人たちが今以上に活躍することだろう。たとえばこんな感じの話だ。

「こうすればデフレはすぐ終わり、みなさんの賃金は上がりますよ」
「政府がもっとばらまけば景気はよくなります」
「大企業がため込んだお金を吐き出させれば、みんな幸せになれます」
「ブラック企業をやっつければみんなホワイト企業の正社員になれますよ」

   上記のような話に共通するのは「あなたは何も努力しなくても豊かになれますよ」という点である。円天(下記<メモ>参照)みたいな詐欺に引っ掛かる高齢者を笑う人は多いが、筆者に言わせれば、上記のようなロジックを信じちゃう人も似たようなものである。

   筆者は、すべての人に対し「こうすればキャリアアップ出来て給料アップできますよ」的な処方箋を示すことは出来ない。でも、そのための第一歩くらいなら示すことはできる。

   それは「痛みを伴わない成長なんてありえない」という当たり前の現実を、まずは理解すべきだということだ。その上で努力したい人はすればいいし、したくない人は別の趣味でも何でも見つけて人生を楽しむといい。筆者自身は、別に全ての人が努力する必要はなくて、ボチボチで人生楽しめるならそういう生き方もアリだと考えている。

   ただし、上記のような誤った希望に向けて努力することだけはやめた方がいい。それは単なる人生の浪費にすぎないからだ。(城繁幸)


<メモ:円天>

   疑似通貨「円天」を宣伝として使った健康商品販売会社「エル・アンド・ジー」(L&G、破産)が摘発され、巨額詐欺事件が明るみになった。同社の元会長が2009年に逮捕され、2012年には最高裁が上告を棄却。組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の罪に問われた元会長の有罪判決が確定した。

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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