2024年 4月 19日 (金)

甘~い海外投資話にノリノリの社長 その気にさせたスゴ腕テクニックとは

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「景気好転のおかげもあり業績が急回復したので、弊社も次のステップへの第一歩として、海外へ投資をしようかと思っている。将来海外に生産拠点を作るための布石にもなりそうだし、日本の銀行取引にとらわれない海外資本の調達にも役にたちそうなのでね」

   パーティの席上で久しぶりにお目にかかったIT機器部品メーカーのS社長が、鼻息荒くまくし立てました。

   社長の話では、この話を持ってきたのは、知人のファイナンシャルプランナーである保険アドバイザーから紹介された海外投資コンサルタントで、社長は付き合いの長い金融専門家の紹介ということですっかり安心しきっている様子でした。しかし詳細を聞けば聞くほど、私が知る先のよく似た過去の悲劇と符合する部分が多く、私のリスク察知センサーは敏感に反応しました。投資先の国が異なる以外は過去の悲劇とほとんど同じような話で、この後の展開が見えるようで思わず背筋が寒くなったのです。

本業をしっかり見つめる重要性

海外で投資を……!?
海外で投資を……!?

   私は社長に言いました。

「細かいご事情は存じ上げませんが、私の経験から申し上げて、その話、とにかくよくお考えになられた方がよろしいと思いますよ。とても危険な匂いを感じます」

   自分の夢多き将来展望に水を差された形のS社長は、憮然とした表情です。

   社長の表情に臆せず、申し上げたのは、

(1)ビジネスは本業をしっかり見つめ、たとえ利益の投資でも、本業でないものに多額の資金を注ぎ込むことは慎むべき。バブル崩壊時に破綻した企業の大半は、それが理由である。
(2)銀行の了解なく、銀行の管理スパンを超える勝手な海外投資に手を出すことは、信用を落とすこと以外のなにものでもない。海外での生産拠点を作りたいのなら、まずはメインバンクに相談するべき。
(3)海外投資アドバイザーはたいてい、自己の手数料収入目的で動いており、企業を改善する目的では動いていないということ。紹介者の信用力にとらわれすぎず、本当に信用できる投資アドバイザーであるのか否か、しっかり見極めるべき。

ということです。

   私が知る先の過去の悲劇とは、リーマンショック以前の話です。当時業績好調だった家電向け電子部品メーカーB社の社長が、旧知の会計士が連れてきた投資顧問と名乗る会社と顧問契約を結んで、その会社の指南により本業の利益を次々と不可解な投資につぎ込んだのでした。

   投資顧問会社の指南内容は、海外に現地法人を作って海外不動産を購入する、不動産の転売により利益を出して海外工場の設立資金をつくる、自社の技術力を看板に海外の投資家を募って向こうで上場させ日本の銀行管理から逃れた自由な世界進出を展開する…、といったB社にとってバラ色の将来像をイメージさせるものだったと言います。「御社のような技術力のある会社は、日本のちまちました規制から解き放たれて、世界に目を向けて飛躍していくべきなのです」。折からの業績進展と投資顧問会社の社長の一言に、社長の決断は一気に彼が指南する方向へ向かいました。

なぜか前向きでアグレッシブな社長ほど…

   しかし結果は、海外投資物件で損失を繰り返し失敗に終わります。加えて、失敗以前から判然としない海外投資により資産実態が見えにくくなったことで取引銀行が軒並み及び腰になっていたところに、投資の失敗により国内の資金繰りも悪化。銀行団がそっぽを向いたことで、高利の怪しいファイナンスに手を出すに至ります。それを知った銀行は一斉に融資を引き上げはじめ、遂には資金繰りが破綻。まさに投資をきっかけとした悪循環の中で、会社更生法適用の憂き目にあったのです。

   B社社長は投資失敗時も、「たまたまタイミングが悪かっただけ。本当はうまくいく話だった。ツキがなかったということに尽きる」と、投資顧問の海外投資指南やそれに従った自分の判断ミスを一切認めようとしませんでした。しかし破綻後に分かったことは、紹介の会計士も投資顧問会社から多額の紹介手数料をとっており、単に彼らの食い物にされていたということ。現地に連れて行き、それらしい投資仲間と引き合わせ安心感を醸成したり、現地の超高級ホテルで接待を繰り返し先々のイメージを演出したり、後から聞いた催眠術にも似た詐欺まがいの手数料稼ぎの巧妙さには、驚くばかりでした。

   前向きで景気が上向き加減になると、経営者に持ち込まれる投資話は急激に増えてきます。そのすべてが怪しいものであると申し上げるつもりはありませんが、なぜか前向きでアグレッシブな社長ほど、まともなリスク検証もせずにこの手の話をバラ色なものと捉えがちなようです。実は景気が上向いてきた時ほど、本業でコツコツと積み上げることが大切です。ビジネスには一足飛びはないと考えた方が、最終的な目標にたどり着き足元を救われない確率は高いからです。

   私の話を聞いたS社長、「とりあえず、メインバンクに相談してみる」とその場を後にしました。おそらく銀行は、この話にストップをかけるでしょう。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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