現場にプレッシャーかけるだけの上司 「部下の不正は部下のせい」は通用するか

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「プロジェクトの遅れは絶対にあってはならんぞ!」
「製品のロス率は何としても1%以内に抑えろ!」

   企業の現場では、日々このような指示が下りてくる。目標達成に向けて組織一丸となることは重要だ。しかし、「あってはならない」「何としても」という言葉は、時として現場に多大なプレッシャーを与え、社員を不正へと追いやる。

   日本を代表する酒造メーカーの工場で、酒税保全法等に違反する行為が長年繰り返されていた。

   純米酒には使用できない醸造アルコールを混ぜるなどの法令違反をしながら、社内記録や製品表示を偽装して、約8年にわたって隠ぺいが続けられていたという。

社内ルール遵守の意識が、法令に対するコンプライアンス意識を希薄に

にがい後味だ・・・
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   よほどの日本酒通でなければ、純米酒との表示を信じて、原材料の違いには気づかずに飲んでしまうだろう。それゆえ、このような不正は罪が深い。メーカーにとってもブランド失墜の危機となる一大事だ。

   第三者委員会の調査報告書によると、これらの不正は、ベテランの製造担当リーダーAが中心となって行っていた。なぜこのようなことをしてしまったのか?「Aのコンプライアンス意識が欠けていた」と言えばそれまでだが、原因はもっと複雑に絡み合っている。

   例えば、純米酒への醸造アルコールの使用は、製造担当者のもろみ発酵技術力の不足を補うために行われたが、その背景には、赤字経営が続く中で、会社がコストの高い外部杜氏を内製化したことがある。さらに、正社員の削減や契約社員への代替により現場が多忙になる一方で、純米酒の需要が急増したために、現場では製造スケジュール厳守のプレッシャーが高まっていった。

   その結果、Aは、違法だと知りつつも、生産計画のスケジュールに合わせることを優先して醸造アルコールを使ってしまった。皮肉なことに、社内ルール遵守の意識が、法令に対するコンプライアンス意識を希薄にしてしまったといえる。

「問題が起きたら正直に報告する」意識を根付かせる必要

   社内ルール遵守の呪縛により、別の不正も起きていた。清酒の製造過程ではどうしても生産量のロスが生じるが、このメーカーでは、コストダウンなどの観点から「ロス率が1%を超えてはならない」とされていた。そのような中、製造現場では、実際には1%を超えた場合でも記録上は常に1%以内に改ざんしていたのだ。

   もちろん、歴代の社長、工場長、Aの上司の誰一人として、「コスト削減のために不正をしろ」とは指示していなかっただろう。だからといって「まさかAがそんなことをしていたとは……」では済まされない。赤字経営のしわ寄せで現場の担当者を追い込んだ責任は重い。

   報告書を読むと、Aはもろみ発酵やロス発生の問題について、当初は上司に報告・相談していた。しかし具体的な支援を得られず、苦肉の策として始めた不正行為が徐々に常態化していった構図も見え隠れする。「工場長もかかる問題があることを認識しながら、解消については指示をするものの、問題解消の結果については積極的に確認等すらしていない」とも指摘されている。

   どんなに気をつけていても問題は起きる。そうなったときに、「問題を起こしてはならない」という意識に縛られると、「隠したい」と思ってしまうのが人情だ。偽装や隠ぺいによる不祥事を防止するためには、「問題が起きたら正直に報告する」意識を根付かせる必要がある。そのためには、上司が部下としっかりコミュニケーションをとり、悪いことを報告しやすい環境を整える必要がある。同時に、悪い報告を受けた際に個人攻撃に終始せず、会社全体の問題として改善を図る組織風土づくりが大切だ。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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