2024年 4月 20日 (土)

「求人広告では東京勤務だった」と転勤拒否 あくまで異動を命じてよいか

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   4月からは心機一転、転勤先で新たな出発――そんな人も多いことだろう。一方で、転勤をめぐりトラブルを抱える人もいる。

   ある理由から社員が転勤を拒否しているという例では、「求人広告の記載との相違」や「子供が生まれたばかり」といった事情が取りざたされている。こうした場合、「社命は社命、いやなら辞めろ」と押し切ってよいものか。

就業規則には転勤について記載

   製造業の人事です。

   最近千葉の方に新たな支店を出したので、東京本社から3人異動させることになったのです。

   昨年中途で入社したばかりですが業界としての経験はあるAさんを異動させることになったので、転勤の辞令を出しました。

   するとAさんが「求人広告と話が違う。勤務地は東京本社と書いてあったじゃないか。だから応募したんだ」と文句を言ってきています。

   確かに、求人を出した時は勤務場所を東京本社で掲載していましたが、雇用契約では勤務地を限定しているわけではありません。

   就業規則にも転勤については記載しています。

   しかも、Aさんは子供が生まれたばかりで家庭の方で慌ただしいようで、上司に了承を得て残業を軽減してもらっている状況です。Aさんの上司であるBさんは

「Aさんは子供が生まれたばかりだし、東京本社勤務で採用したんだから異動は勘弁してやってくれないか」

と言ってきました。

   そもそも、求人で東京本社として募集して採用したら異動させることはできないのでしょうか?また、「子供が生まれたばかり」という事情は、どの程度考慮するべきなのでしょうか?

社会保険労務士 野崎大輔の視点
雇用契約書で勤務地を限定していなければ、転勤命令は有効

   求人票に勤務地が記載されていたとしても、それはさしあたっての就業場所を示しているに過ぎません。雇用契約書で勤務地を限定していないのであれば転勤命令は有効です。求人票の記載によって勤務地を限定したとは考えにくく、原則として入社時の雇用契約と入社後の就業規則に従うこととなります。

   転勤命令が権利の濫用になるか否かは、異動の必要性と人選の合理性、そして異動によって生じる社員の生活上の不利益を総合的に判断します。転勤命令を拒否した社員に対しては、業務命令違反として懲戒処分を下すこととなります。この場合は懲戒解雇となりますが、実務的には自主退職か普通解雇となるケースが多いです。転勤命令拒否に対する処分を甘くすると、転勤命令拒否をする社員が増えてしまう可能性が出てきてしまうからです。

   今後、このような誤解を防ぐためには、求人票に「転勤あり」という表記を入れておき、面接時にも確認をしておいた方がいいかもしれません。

臨床心理士 尾崎健一の視点
多様な人材の活用のために個人事情へも配慮を

   契約書内容の如何よりも労使双方の事情や希望を優先して、落とし所を見つけていた時代もありました。契約書をもとに決定することに重心が移りつつあるのは、時代の変化と言えます。同様に、多様な人材に働いてもらわなければ会社が立ち行かなくなっているのも時代の変化です。

   このケースの様に、辞令が出てから転勤を知るのでは自分の生活への準備もできません。事前に本人への打診や意志確認をする必要があったでしょう。これでは個人事情への配慮がないと言われても仕方なく、本人や周りの人のモチベーションを下げることにもつながります。

   また、法的根拠を加味するなら、育児介護休業法第26条の「子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」の項を検討する必要があります。

   いずれにしても、多様な人材の活用と離職防止のためには、個別の事情への配慮が必要な時代になるでしょう。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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