「韓国船沈没事故」にみる朴大統領の失敗 広報戦略の視点から

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   韓国南西部の珍島(チンド)沖で沈没した旅客船「セウォル号」事故は、死者・行方不明者が300人を超す大惨事となった。韓国各紙は「韓国は『三流国家』だった」などの見出しを掲げた記事を相次いで掲載し、政権の対応を批判している。

   事故発生は4月16日(2014年)。それから乗客者数の把握に3日ほどかかり、船内にダイバーがまだ進入できていなかった18日には「船内で捜索を始めた」と発表、その数時間後に撤回したことなどが不信を増幅させた。そこで今回は、この事故を広報の観点から分析してみたい。

セオリーは、事実確認、対応策などの「3点セット」

   危機管理時の広報のセオリーは、事実確認と原因究明、対応策、再発防止策の「3点セット」。今回のケースでは、人命救助が急務であることから、原因究明を後回しにして、まずは事実確認と対応策を急ぎ、できる限り速やかに発表しなければならない。その際、船を運航する会社が当事者であり、セウォル号が遭難信号を出した段階で重大事故と受け止め、監督官庁に報告するとともに、事故の第1報を発表しなければならない。

   また、政府は船を運航する会社からの報告と、海上交通管制センター、木浦海洋警察からの連絡を受けて、すぐさま人命救助の対応策をまとめ、実行しなければならない。この段階で事故対策本部は政府内に置かれ、現場海域の潮の流れ、海水の透明度、必要機材の選定、諸外国への救援要請、被害者家族への連絡と宿泊場所の手当てなどの情報を一元化し、矢継ぎ早に実行に移す必要があった。

   事故が起こったのは4月16日午前8時50分頃で、8時55分頃には目的地である済州島の海上交通管制センターに異常が連絡された。記者発表は例えば、船を運航する会社の第1報が9時30分、政府の事故対策本部会見が10時から1時間置きに開かれるくらいの緊張感があってよかった。しかし、実際の対応は後手後手に回った。

弔意を示しつつも毅然たる態度を貫かなければ…

   事故の翌日、海洋警察庁や海軍などの200人近い潜水士が救助活動に当たったが、潮流が速く、天候も悪化したことから船内に進入できなかった。韓国政府は船体を引き揚げる海上クレーン3台を派遣することを決めたが、到着は4月18日になった。そのクレーンも潮流と視界不良で船体に近づけず、18日には船がほぼ完全に水没した。

   朴大統領は事故の翌日に乗客の家族らが集まる体育館を訪問し、できる限りの支援を行うとともに、事故原因の究明を図ることを約束した。しかし、この日の朴大統領の記者会見は、テレビで見る限り、広報の観点からは好ましいとは言えなかった。事故から丸一日経過しているのに、できる限りの支援の具体策が乏しかったうえ、表情が疲れて弱々しい印象を与えていたからである。大統領は人命救助の総責任者なのだから、具体策がなければ失望させるだけだし、弔意を示しつつも毅然たる態度を貫かなければ、乗客の家族や国民に安心感を与えられない。

   事故や災害時には、初期動作が極めて重要だ。広報面では、事実確認と対応策の迅速な発表が当たり前であり、それができなければ批判を浴びてしまう。韓国の旅客船の沈没事故は、事故当日の韓国政府の緩慢とも思える対応が一日遅れの救助になり、その一日遅れが潮の流れや気象条件により、さらなる遅れにつながった感が否めない。企業広報の観点からも、教訓としたい出来事だった。(管野吉信)

管野 吉信(かんの・よしのぶ)
1959年生まれ。日刊工業新聞社に記者、編集局デスク・部長として25年間勤務。経済産業省の中小企業政策審議会臨時委員などを務める。東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)の広報室長を経て、2012年に「中堅・中小企業の隠れたニュースを世に出す」を理念に、株式会社広報ブレーンを設立。
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