2024年 4月 25日 (木)

「トンネル天井落下事故」の事例にみる 「報道被害」防いだ的確な広報対応

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

「事実確認と発表主体」は十分に押さえてほしい

   もう一つ、筆者に相談があった話を紹介したい。昨(2013)年、ある食品メーカーの商品に、待ち針のようなものが混入し、この商品を購入した消費者から直接、メーカーに苦情が寄せられた。

   このメーカーは消費者に対し「社内調査のうえ速やかに回答いたします」と答えて、対策に乗り出した。その後、このメーカーがとった行動は次の通り。

(1)工場を半日で徹底調査し、万が一にも異物が混入しないことを確認
(2)苦情を寄せた消費者宅を翌日、副社長、幹部の2人で訪問し、現物を確認するとともに、出荷段階で異物が混入する可能性がゼロであることを説明
(3)警察に届け出

   この件では、「なぜメーカーはすぐさま警察に届け出なかったのか。他に待ち針のようなものが混入した商品が出回り、重大事故につながったら手遅れになる」との見方もあるだろう。しかし、初期段階で警察に届け出るのは商品を購入した消費者であり、メーカーが事実確認と調査を優先するのは当たり前と言える。消費者からの苦情が虚偽だったり、消費者がクレーマーだったりする可能性も否定できず、このメーカーは消費者とのトラブルも視野に入れて2人で訪問した。また、事の重大性を認識して副社長が出向いた。結果として、消費者とのトラブルはなく、警察は本件以外に同様の届け出がなかったことから公表しなかった。愉快犯の出現を恐れての判断だったと思われる。

   もし、警察に届け出て、事件を公表していたら、どうだったろうか。当該商品はしばらく売れず、メーカーは恨みを買うような出来事を詮索され、愉快犯も出現したかもしれない。冷静で素早い対応が、危機を未然に防いだことになる。

   リスクはいつ何時、降りかかってくるか分からない。また、自ら招く不祥事もインターネット上により突然発覚する恐れがある。企業は社会に生き、お客様に生かされているのだから、社会やお客様に悪影響を与える事実については、例え自社が苦境に陥るとしても公表するのは当然だ。ただし、その際、事実確認と発表主体については十分に押さえてほしい。企業防衛に成功した会社は、いずれも速やかな事実確認を行い、そのうえで発表の有無、発表主体、発表時期を冷静に見極めている。とりわけ、役所や警察、業界他社が絡むケースでは慎重に対処しないといけない。広報パーソンは、社会と所属企業の両方に軸足を置く。そのバランス感覚が会社を救うケースは、少なからずある。(管野吉信)

管野 吉信(かんの・よしのぶ)
1959年生まれ。日刊工業新聞社に記者、編集局デスク・部長として25年間勤務。経済産業省の中小企業政策審議会臨時委員などを務める。東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)の広報室長を経て、2012年に「中堅・中小企業の隠れたニュースを世に出す」を理念に、株式会社広報ブレーンを設立。
姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中