2024年 4月 24日 (水)

「トンネル天井落下事故」の事例にみる 「報道被害」防いだ的確な広報対応

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   不祥事や、事件・事故などの突発的リスクは、企業の存続にかかわる一大事だ。広報パーソンは、企業防衛を図る経営陣と、社会やお客様との板挟みにあって苦労必至となる。しかし、機転を利かせて適切に対処すれば、リスクを軽減できる。

   山梨県大月市笹子町の中央自動車道上り線笹子トンネルで2012年12月2日に発生した天井板落下事故をご記憶の方は多いだろう。走行中の車が巻き込まれて9人の方が亡くなられた惨事となった。NEXCO中日本は12月3日の記者会見で「トンネル本体上部の天井(覆工コンクリート)と、天井板を支える吊り金具をつなぐボルト(コンクリートアンカー、直径1.6センチ、長さ23センチ)が抜けている箇所があった」ことを明らかにした。

出しゃばりと混乱を避けた

   この段階では、ボルトそのものに問題があったのか、施工方法に問題があったのか、それとも管理体制に問題があったのかは判然としておらず、筆者がアンカーボルトの最大手メーカーであるサンコーテクノ(千葉県流山市)に確認したところ、同社には多くのメディアから問い合わせがあったという。広報責任者の対応は以下の通りである。

(1)過去の記録をすべて調べたところ、笹子トンネルの工事に当社はかかわっていない
(2)マスコミ対応は、一般社団法人日本建築あと施工アンカー協会(JCAA)に一本化している

   この対応は的確である。最大手メーカーとして、自らがかかわったかどうかの事実確認を速やかに行っていた。また、原因究明、対応策、再発防止策は国土交通省、NEXCO中日本、協会などが主導すべきテーマであり、出しゃばりと混乱を避けた。結果として、サンコーテクノの社名はマスコミに出ず、同型トンネル49か所の緊急点検が行われた過程でボルトの信頼性が揺らぐこともなかった。むしろ、老朽化設備の補修が叫ばれ、ボルト業界にはプラスに作用した。

「事実確認と発表主体」は十分に押さえてほしい

   もう一つ、筆者に相談があった話を紹介したい。昨(2013)年、ある食品メーカーの商品に、待ち針のようなものが混入し、この商品を購入した消費者から直接、メーカーに苦情が寄せられた。

   このメーカーは消費者に対し「社内調査のうえ速やかに回答いたします」と答えて、対策に乗り出した。その後、このメーカーがとった行動は次の通り。

(1)工場を半日で徹底調査し、万が一にも異物が混入しないことを確認
(2)苦情を寄せた消費者宅を翌日、副社長、幹部の2人で訪問し、現物を確認するとともに、出荷段階で異物が混入する可能性がゼロであることを説明
(3)警察に届け出

   この件では、「なぜメーカーはすぐさま警察に届け出なかったのか。他に待ち針のようなものが混入した商品が出回り、重大事故につながったら手遅れになる」との見方もあるだろう。しかし、初期段階で警察に届け出るのは商品を購入した消費者であり、メーカーが事実確認と調査を優先するのは当たり前と言える。消費者からの苦情が虚偽だったり、消費者がクレーマーだったりする可能性も否定できず、このメーカーは消費者とのトラブルも視野に入れて2人で訪問した。また、事の重大性を認識して副社長が出向いた。結果として、消費者とのトラブルはなく、警察は本件以外に同様の届け出がなかったことから公表しなかった。愉快犯の出現を恐れての判断だったと思われる。

   もし、警察に届け出て、事件を公表していたら、どうだったろうか。当該商品はしばらく売れず、メーカーは恨みを買うような出来事を詮索され、愉快犯も出現したかもしれない。冷静で素早い対応が、危機を未然に防いだことになる。

   リスクはいつ何時、降りかかってくるか分からない。また、自ら招く不祥事もインターネット上により突然発覚する恐れがある。企業は社会に生き、お客様に生かされているのだから、社会やお客様に悪影響を与える事実については、例え自社が苦境に陥るとしても公表するのは当然だ。ただし、その際、事実確認と発表主体については十分に押さえてほしい。企業防衛に成功した会社は、いずれも速やかな事実確認を行い、そのうえで発表の有無、発表主体、発表時期を冷静に見極めている。とりわけ、役所や警察、業界他社が絡むケースでは慎重に対処しないといけない。広報パーソンは、社会と所属企業の両方に軸足を置く。そのバランス感覚が会社を救うケースは、少なからずある。(管野吉信)

管野 吉信(かんの・よしのぶ)
1959年生まれ。日刊工業新聞社に記者、編集局デスク・部長として25年間勤務。経済産業省の中小企業政策審議会臨時委員などを務める。東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)の広報室長を経て、2012年に「中堅・中小企業の隠れたニュースを世に出す」を理念に、株式会社広報ブレーンを設立。
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