2024年 4月 20日 (土)

「お目つけ役」社員が「ミイラ」になるとき 子会社との「不正タッグ」はなぜ組まれたか

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   上場企業における最近の不祥事は、子会社で発生することが多い。特に、地方や海外など親会社と地理的に離れていて管理が行き届きにくかったり、親会社の本業とは全く異なる業種で実態把握が難しかったりする場合には、不正のリスクが高まりやすい。

   「日常生活に関わるあらゆるトラブル解決」を掲げ、相次ぐ業務提携や合併により多角化を進める上場企業A社。この会社で最近発覚した売上水増し不正も、合併した異業種の子会社(B社)において起きたものだ。

「責任を追及される立場」というキーワード

子会社のお目付け役のはずが…
子会社のお目付け役のはずが…

   B社は、農学修士の社長が発見した新種の藻を活用したバイオベンチャー。その藻が原発事故後の除染作業や鳥インフルエンザ対策に活用できるということで、マスコミからも一躍脚光を浴びた。将来有望な事業として、経済産業省からも注目されている。

   除染作業は、原発事故の被害者にとって正に「生活トラブルの解決」であり、社会的な意義も大きい。A社は、既存事業とのシナジー効果も見込んで、2013年2月にB社の株を引き受けて連結子会社とした。それにより、環境関連分野での成長期待からA社株が急上昇した時期もあったが、B社の財務状態は買収前から赤字かつ債務超過。管理体制も弱く、A社は当初から資金と人材の投入によるテコ入れを迫られた。

   そんな中、B社社長とA社からお目付け役として派遣された社員を中心に、売上の水増しが横行した。調査報告書には、A社の社員がB社社長に対して、毎月いくらの売上を「作り出せば」いいか、不正を隠すためにどのような「処理」するかなどを細かく指示する電子メールの文面が生々しく綴られている。

   「ミイラ取りがミイラになる」ではないが、不正を防止すべきお目付け役が、なぜ社長に指示を出してまで、不正に手を染めてしまったのだろうか。調査報告書を読むと「責任を追及される立場」というキーワードが浮かび上がる。

   B社社長の不正の動機は明白だ。A社から多額の資金援助を得ている立場上、売上計画を何としても達成し、利益を上げなければならない。親会社からの責任追及を逃れたいというのは、業績不振の子会社社長が抱える典型的なプレッシャーといえるだろう。

「管理方針」は、お題目だけだった?

   一方、お目付け役であるA社社員が果たすべき「責任」は、上場企業として子会社の内部統制をがっちりと作り上げ、ミスや不正による損失が生じないようにすることだ。つまり、皮肉にも、自分の責任が厳しく追及されるような事態を自ら主導してしまったということになる。B社の管理体制強化に向けて孤軍奮闘する中で、自分の置かれた立場を見失い、「目標が達成できないと自分が責任を問われる」「そうなればA社にはもう戻れないかもしれない」というプレッシャーにとらわれてしまったのかもしれない。

   A社は、多角経営で増加したグループ会社を管理するために、以下のような立派な方針を掲げている。

●管理担当取締役を関係会社管理の総責任者とする。
●管理部内に関係会社管理グループを設置し、グループ各社の管理、指導を実施する。
●主要なグループ各社に取締役を派遣する。
●グループ各社は親会社と連携しつつ、自立的に内部統制システムを整備する。
●主要なグループ各社について、当社監査役が監査役に就任し、業務の適正を確保する。
●主要なグループ各社に対して、内部監査室が定期的に内部監査を実施する。
●グループ各社の社長が参加する会議を定期的に開催し、コンプライアンスを徹底する。

   これらがすべて文字どおり実践されていれば、B社に派遣した社員が道を誤ることはなかっただろう。しかし、残念ながらお題目だけのものが多かったようである。管理担当取締役、監査役、内部監査の「責任の追及」もしっかりやらなければならない。

   B社における不祥事はさらに拡大する可能性が指摘されている。第三者委員会調査報告書の内容に会計監査人が納得せず、調査委員会を再設置する事態に発展しているのだ。さらに、今期実施したLED事業会社への出資金を直後に減損処理を余儀なくされた。B社以外の子会社の管理体制の不備も懸念される。

   皆さんの会社の子会社には、十分に目が行き届いているか?子会社に派遣されて孤立している社員はいないか?(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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