2024年 4月 27日 (土)

日本のフリーランサーに「非効率を極める」のススメ

   ロゴのデザインが5000円じゃ、食えなくなる!というフリーランサーの悲鳴のような話が以前、ネットで議論されたことがある。

   私も、先日、あるウェブサイトのロゴを海外のフリーランサーに依頼した。oDeskというサービスを使ったのだが、あらためて、日本のフリーランサーの先行きの暗さに愕然とした。

品質を高めれば……は甘い発想?

ああでもない、こうでもないと…
ああでもない、こうでもないと…

   ロゴのデザインを、3000円の固定価格で応募すると、すぐにアジアを中心に20以上の応募があった。そのなかから過去の実績を多く提示していたフィリピンの女性デザイナーに依頼した。

   依頼した翌日には6つのロゴのプランが提示され、どれも必要にして十分なロゴだった。1つを選んで、微調整をしていただいて納品した。ボーナスを含めて、3500円の仕事であった。

   たしかにこれでは日本のデザイナーは食えなくなるだろう。

   ではどうしたらいいのか?

   よくある答えは、「品質」だ。品質を高めれば、フィリピンやインドのデザイナーに勝てるというものだ。

   これは、事情を全く知らない実にナイーブな意見だとおもう。フィリピンやインドのフリーランサーは必要にして十分なクオリティの物を作ってくるし、品質が低いとはまったく言えない。先ほどのフィリピンのデザイナーも、ロゴのクオリティや納期の面で、日本の品質のよいデザイナーに十分以上に匹敵している。そして、価格は1/20だ。

   日本人デザイナーがいくら品質をたかめたところで、普通のクライアントがもとめるようなデザインでは、これらの国のひとにはかなわないだろう。

   唯一、品質を高めるなら、一流のプロフェッショナルを目指すしか無い。私が依頼するようなレベルの新規にスタートさせるウェブサイトの案件ではなく、すでに認知があり、世界中に展開しているような企業をお手伝いするという案件だ。これくらいになると、たとえば、ロゴひとつにとっても、ブランドイメージの戦略やら、ほかの要素も多分に関わってきて大掛かりになり、コンサルティングが必要になるなど、「極めて高い品質のサービス」が求められる。これはアジアのフリーランサーには代替不可能だ。

無駄な習慣や非効率なことが好きなひとが、まだまだ大量に存在する

   そういうと、そんなのムリという声が聞こえそうだ。

   もう1つは、逆説的だがもっと非効率を極めるということだ。ウェブで仕事をうけるアジアのフリーランサーたちはあまりややこしいコミュニケーションはしたがらない。ワケのわからない依頼にたいして雑談につきあって、あーでもないこーでもないというようなことはしてくれない。明確な依頼に対して十分な品質のものを提供するだけで、効率性を重視している。

   一方で、日本の中には、もっと不明確で、曖昧で、非効率な依頼がある。

   合理的で効率性を求めるクライアントは、海外に発注する流れは止まらないだろうが、そうではないクライアントもいる。理由もなく海外嫌いで、英語はできず、非論理的で、決まったこともすぐひっくり返すやっかいぶりで、なにかにつけて呼びつけるようなクライアントだ。恐ろしいほどに非効率なクライアントだが、彼らは論理的でなく効率も重視しないので、最後まで日本人に、日本人価格で発注してくれる可能性がある。

   これらのクライアントを相手にするしかない。

   つまり、「価格」でも「品質」でも勝てないので、それ以外の本質的でないところで勝負するということだ。

   幸いにして日本には、まだまだ無駄な習慣や、非効率なことが好きなひとが大量に存在する。彼らがすぐに消えてなくなるわけではない。そういう人に、徹底的に非効率なやりかたでベッタリと寄り添うことが、生き残りの鍵だろう。最後は、誰もやりたがらない仕事だけが残る。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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