有川浩『空飛ぶ広報室』から学ぶ広報戦略

印刷

   『図書館戦争』(角川文庫)、『阪急電車』(幻冬舎文庫)、『三匹のおっさん』(文春文庫)、『県庁おもてなし課』(角川文庫)などで知られる有川浩が、航空自衛隊の広報室を舞台に2012年7月に刊行したのが『空飛ぶ広報室』(幻冬舎)だ。

   2013年の直木賞候補作となり、TBSでテレビドラマ化された同作品には、広報関係者にとって示唆に富む場面が多数描かれている。ご紹介したい。

大手企業の広報担当部署が弾くソロバン勘定

――「今日の協力映像は帝都テレビの月9で最低三分流れます! これは広告費に換算すればおよそ二億の効果がある! 諸君はこの一週間で、航空自衛隊に対して二億の利益をもたらしたことになります! これは大いに誇っていただきたい!」――

   鷺坂広報室長のこの言葉。ミーハーで詐欺師と呼ばれている彼の面目躍如ではなく、大手企業の広報担当部署では普通に弾かれているソロバン勘定だ。大手全国紙やキーテレビ局の広告宣伝費は、1000万円を軽く超える。新聞で言えば、全面広告を1回出すだけで1500万円前後がかかってしまう。一方、広報セクションは、社会性やヨソにない特徴をリリースにまとめて取材・掲載してもらうので、お金がかからない。しかも、記事はニュースバリューを認めてもらった結果なので、広告より価値が高いに決まっている。そこで、同じスペース、同じ時間の広告費と比べて例えば2倍で計算し、広告費換算の効果という社内アピールをするわけだ。

   この理屈が中小企業では、なかなか理解されにくい。多くの中小企業で広報担当者を置いていないのは広報の役割に対する認識が不足し、収益部門ではないととらえる風潮があるからだ。とくに広告を活用していない中小企業では、情報発信にはコストがかかるという当たり前のことが分からず、記事を無料の広告と思っている企業すら存在する。記事になるということはニュース価値を認めてもらうことで、業績や従業員の士気に直結する。採用にも好影響を与える。広報がもたらす収益効果をもっと理解してほしい。

「広報」における「守り」

――「自衛隊のいいところを売り込む『攻め』の部分を担当するのが広報班なら、報道班は危機管理的なマスコミ対応を担当する『守り』の部門。攻守が一体となって初めて広報室が機能するわけだけど、守備がしっかりしてないと攻めには打って出られないだろう?」――

   これは、緊急記者会見を想定したメディアトレーニングに初めて予算を使った時の鷺坂広報室長の言葉。相次ぐ企業不祥事を背景に、大手企業ではメディアトレーニングを実施しているところが多い。事実確認、対応策、原因究明、再発防止策の基本項目をはじめ、説明の仕方、スーツやネクタイの色、お辞儀の角度などを徹底的にチェックして万が一に備える。中小企業におけるメディアトレーニングは実施されていないに等しい状態だが、不祥事が発生すれば企業の存立をも危うくするだけに、コンプライアンス(法令順守)、内部統制システムとあわせて考えておきたいテーマだ。経営を構成する基盤は人、モノ、カネ、情報なのだから、情報戦略のかなめとなる広報セクションに対する認識を深め、一定のコストをかけるべきではないだろうか。(管野吉信)

管野 吉信(かんの・よしのぶ)
1959年生まれ。日刊工業新聞社に記者、編集局デスク・部長として25年間勤務。経済産業省の中小企業政策審議会臨時委員などを務める。東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)の広報室長を経て、2012年に「中堅・中小企業の隠れたニュースを世に出す」を理念に、株式会社広報ブレーンを設立。
  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中