2024年 4月 23日 (火)

「ノーベル賞」中村修二氏の「怒り」の正体とは何か

双方に不幸な行き違い

   でも、彼は留学やその後の海外での仕事を通じて、もう一つの世界を知ってしまった。それは、運命共同体など存在せず、個人と組織が契約によって結びついた流動的な世界だ。共同体ではないのだから組織は個人を守らないし、大事に育ててもくれない。だが、優秀であれば、他の従業員の何百倍もの報酬を払うし、起業やストックオプションなどの制度も充実している。

「アメリカなら自分はきっと何十億円も稼げたはずなのに」

   これが、氏の怒りの本質だろう。筆者自身はそれを強欲とは思わない。優秀者が多額の報酬を受け取るのは当然の権利であり、その機会を奪われた人間が侮辱と感じるのは自然なことだからだ。


   ただ、徳島の無名の若者だった氏を育てたのは、あくまでも日亜化学という運命共同体であり、そこに属したからこそ、氏は今の高みに到達出来たように筆者は思う。ちなみに、日亜は中村氏の在籍中、年収2000万円近い役員待遇を提供している。氏が最初からアメリカで活動し同じほどに成功した場合の利益よりははるかに少ないかもしれないものの、一つの共同体としては精いっぱいのもてなしだったのではないか。


   というわけで、筆者は日亜をケチとも、中村氏を強欲すぎるとも思わない。ただ、曖昧さの多分に残る共同体システムを通じて、双方に不幸な行き違いが生じてしまったというのが筆者の見方だ。

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中