2024年 4月 27日 (土)

「有休5日義務付け」は不発の予感 「休めない」構造は変わらない

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   厚労省が、5日程度の有給休暇の取得促進を企業に義務付ける方針とのことだ。確かに日本の有休取得率は世界的に見ても異例の低さなのは事実で、それを引き上げさせれば実質的なワークシェアリング効果も見込めるかもしれない。


   だが、何事にもそれを成している構造的な理由というものがあって、それに目をつぶったまま「数字だけ整えるべし」というのは、お役所的発想の典型だ。というわけで実務サイドからもう少し深く論点整理しておこう。

「業務範囲の切り分けが曖昧」「効率を上げるインセンティブが弱い」

図は筆者作成。有休取得率「the Expedia Vacation Deprivation 2012」祝日「mercer.Worldwide Benefit and Employment Guidelines」労働生産性 OECD資料より2012年分の数値労働時間  OECD資料より2013年分の数値、日本のみ総務省労働力調査使用

図は筆者作成。
有休取得率「the Expedia Vacation Deprivation 2012」
祝日「mercer.Worldwide Benefit and Employment Guidelines」
労働生産性 OECD資料より2012年分の数値
労働時間  OECD資料より2013年分の数値、日本のみ総務省労働力調査使用

   まず、日本人は有休取得が低いことにくわえ、以下のような特徴もある。

・労働時間がとても長い
・労働生産性は低い
・祝日は多い

   ここから浮かんでくる平均的日本人労働者の姿は、長時間働き、有休もあまり使おうとしない一方、仕事の効率化や生産性向上にはあまり関心がないというものだ。なぜそうなるのか。理由は2点ある。


1:業務範囲の切り分けが曖昧なため、自分の担当業務を効率化できない

   残業の多い職場にヒアリングをしてみると「早く終わらせても他の人の仕事が降ってくるだけ」だの「みんな席についているので、早く終わらせても帰りにくい雰囲気がある」だのといった意見が必ず出てくるが、それらはすべて「業務の範囲が曖昧なこと」の副産物だ。


2:そもそも、賃金が時間に応じて支払われるため、効率を上げるインセンティブが弱い

   同様に「一定の残業をこなさないと生活水準が維持できないから」という意見もよくある。これは以前述べたように、多くのホワイトカラーは成果が時間に比例しないにも関わらず、無理やり時間に応じた残業代を企業に払わせている結果、基本給やボーナスが低く抑制されていることによる。早く帰った奴が損をするという残業チキンレース状態が出現しているわけだ。

同一労働同一賃金の基本法を作り、その流れを後押し

   こういう状況下で有休5日取得運動を推進するとどうなるか。多分それくらいならなんとかなるだろう。というのも、彼の仕事の中には無駄な業務がそれなりに含まれているに違いなく、それを5日分見直せば済む話だから。でも、それは問題の本質に切り込むソリューションなのだろうか。


   たぶん有休を5日間無理やり取らせたところで、サラリーマンたちはお盆や年末年始といった「比較的休みの取りやすい空気」のただよう時期に、互いの顔色をうかがいつつ、赤信号みんなで渡れば~式に揃って有休を申請するだけだろう。筆者にはそれが根本的な解決策とはとても思えない。


   もともと日本の祝日が多いのは、休めない、休もうともしない労働者を休ませるため、政府が音頭をとっていろいろな祝日を増やしてきた結果である。要は「休めない」という構造的課題に目をつぶって、お上が法律で休ませてきたわけだ。


   でも、日本人の労働時間は今でも世界トップクラスで過労死はなくならないし、生産性も停滞したまま、人件費の安い新興国と同じ土俵で勝負し続けている企業が少なくない。役所がいくら規制をこねくり回しても、問題の本質は変えられないのだ。


   昨(2014)年のソニーや日立のように、年功給を廃し、業務範囲の明確な職務給に切り替える動きは既に発生しつつある。後は同一労働同一賃金の基本法を作ってその流れを後押ししてやることで、先の1点目はクリアできるだろう。


   合わせて、時間によらない新たな働き方を拡大していくことで、日本人ホワイトカラーの中に、従来よりずっと大きな裁量が生まれることになる。国が有休取得の目標を掲げるのは、それからでも遅くはないだろう。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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