「頭の中を盗聴される」人々とネットの関係

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   先日、淡路島で男が隣人5人を刺殺するという痛ましい事件があった。その後の警察の調べや報道などによると、容疑者は日ごろから、ネットを通じて近隣住人に対する一方的な思い込みに基づく憎悪を募らせていたという。


   こうしたニュースを目にして、筆者はふと昔のことを思い出していた。直接キャリアに関係するような話ではないけれども、誰にでも起こり得る話なのでまとめておこうと思う。

「仲間に出会えた」

情報の取捨選択の仕方がカギに
情報の取捨選択の仕方がカギに

   もう10年以上前の話だが、突然、筆者の知人の一人が奇妙なことを言い始めた。

「最近、誰かに頭の中を盗聴されているような気がするんだ」

   そんなことはあるわけがないと言うとその場は収まるが、数日するとまた同じようなことを口にする。結局、彼は病院に行き、ある病気だと診断され薬も処方されることとなった(ここでは病名は伏せておく)。2か月ほど後に会った時には、すっかり症状が改善していたことを覚えている。


   ただ、それから半年後に彼に再会した時、その症状は以前より大幅に悪化し、顔つきもまるで別人のように変わっていた。その時の彼の言葉は今でもよく覚えている。

「インターネットで、同じ盗聴に苦しむ仲間たちに出会えて、今はいろいろ情報交換している。もう薬になんて頼らず徹底的に戦おうと思ってるんだ」

   要するに、彼はインターネット上で、同じような病気を罹患し、病識の無いまま誤った情報発信を続ける人とコンタクトをとってしまい、足を抜け出せかけていた泥沼に再びはまりこんでしまったということだ。他にも、特定の集団から嫌がらせを受けているだの、思考に直接働きかける技術があるだのといった話を聞かされた記憶がある。

人事部門の重要なミッション


   以来、彼とは音信不通であり、勤めていた会社を辞めたこと以外、何をしているかもわからない。でも、今回のような凶行が起こされるたびに、いつか彼の名を事件報道の中で目にする日が来るのでは、と憂鬱な気分になる。


   管理部門の人間なら、こうした病気は決して珍しいものではないことは、よくわかっていると思う。100人いればだいたい1人ぐらいはそうした傾向のある人がいるもので、そういう人と面談し、医療機関を受診するよう説得したり、場合によっては休職を勧めたりするのも、人事部門の重要なミッションだったりする。


   ただ、インターネットの普及した2000年代に入ってから、そうした傾向のある人たちの話に、いくつかの共通するキーワードや陰謀論が頻出するようになった。恐らく、彼らは彼らなりにネットを使って情報収集しているのだろう。だがそれがプラスに作用しているかというと微妙である。


   インターネットは、自分で情報を取捨選択できる最強のメディアだ。ただ、取捨選択の仕方次第で、信用度ゼロのガラクタにもなりうるという事実は、常に心のどこかにとどめておくべきだろう。ネットの向こうで親身になって助言を送ってくれる相手は、ひょっとするとあなた以上に助言の必要な状態かもしれないのだから。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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