2024年 4月 18日 (木)

ボーナスが現物支給 受け入れるしかないですか?

   先月(2015年6月)末に、国家公務員へボーナスが支給されました。管理職を除いた職員の平均で61万9900円と昨夏より3万3200円アップで、3年連続の増額になったというニュースが話題となりました。会社によってはボーナスが出ないところもありますが、少しでももらえると嬉しいものですよね。ただ、もらえるけれど「現金ではない」と、会社からもし言われたら・・・。

   今回は、「現物支給」を含めたボーナスの問題について、解説していきたいと思います。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

「業績が悪かったため」現物支給になると知らされた

ええっ?現金じゃないの!?
ええっ?現金じゃないの!?

   私の会社では、年2回のボーナスが支給されます。業績によって金額が多少前後することはあったのですが、みんなが納得できる額は支給されていたので、これまで特に問題になることはありませんでした。

   しかし、上司から先日、今度のボーナスは現物支給になりそうだ、と知らされました。「現物」の説明はありませんでしたが、商品券か何かでは、ともっぱらの噂です。

   上司の説明では、理由は

「業績が悪かったため」

だそうです。だとしても、金額が少なくなるのは仕方ないとして、現物支給では納得がいきません。あらためて就業規則を読み返してみると、ボーナスの支払いを約束する文言はある一方で、通貨払いではない(現物支給の)可能性も書かれていました。これまで気付きませんでした。

   私の会社には労働組合はなく、「誰に相談すればいいんだ?」と同僚と頭を抱えています。現物支給の可能性が就業規則に書かれている以上、受け入れるしかないでしょうか?(実際の例を一部変更しています)

弁護士解説 労働協約の有無の確認を

   ボーナスが出る人は、この時期はウキウキしますよね。そのお金で何を買おうか?どこに旅行に行こうか?考えるだけで夢がふくらみます。しかし、今回は、突然、お金じゃなくて現物でボーナスを支給すると言われたとのこと。一大事ですよね。夢が崩れ去ってしまいます。会社側の対応には問題はないのでしょうか。

   毎月の給料と異なり、賞与は特に労働基準法で定められていません。額はもちろん、そもそも支給をする・しないについても各企業が自由に定めることができます。そのため、ボーナスを支給しないという契約も法律上は問題ありません。ただ、就業規則などに賞与についての規定があり、たとえば、「賞与は7月と12月に賃金1か月分を支給する」などと明示されている場合については別です。会社には賞与の支払い義務が生じます。また、就業規則などに具体的な金額や算出方法が明示されているにもかかわらず相当の金額が支払われない場合、労働者には不足分を請求する権利が生じます。

   次に、現物支給は許されるのでしょうか。そもそも労働基準法には通貨払いの原則が定められており、「賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」(第24条)とされています。賞与の額や支払時期が確定的に定められている場合にも、この原則が適用されます。したがって、原則として賞与は通貨で支払わなければならず、現物支給は認められていません。しかし、使用者と労働組合で「賃金は現物で支給することがある」との労働協約が結ばれている場合には、例外的に現物支給が認められます。よって、このような労働協約がないにもかかわらず会社が一方的に賃金を現物支給に代えることはできないのです。

   なお、よく混同されがちなのですが、「労働協約」は労働組合とのみ結ぶことのできる契約です。事業所に労働組合がない場合に、労働者の過半数を代表する者と結ぶこともできる「労使協定」とは違いますので、ご注意ください。

就業規則に書いてあっても・・・

   今回のケースでは、就業規則に、ボーナスの支払いを約束する文言はある一方で、現物支給の可能性も書かれているとのことです。しかし、ご相談者様の会社には、労働組合がないということですので、労働協約そのものが結べておらず、労働協約に現物支給に関する定めがあるとは言えません。そのため、就業規則にいくら書かれていても、会社は現物支給をすることができないことになりますね。

   今回のケースでボーナスを現物で支給することは明らかに法律違反ですから、会社に伝えて、しっかり現金でボーナスをもらってくださいね。

   ポイントを2点にまとめると、

1:就業規則などに具体的な金額や算出方法が明示されているにもかかわらず相当の金額が支払われない場合、労働者には不足分を請求する権利が生じる。
2:原則として賞与は通貨で支払わなければならない。しかし、使用者と労働組合で「賃金は現物で支給することがある」との労働協約が結ばれている場合には、例外的に現物支給が認められる。
岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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