2024年 4月 27日 (土)

「想定外」の不正を極力なくす 「固有リスク」の考え方とは

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   次のような質問をされたら、皆さんはどう答えるだろうか?

   「あなたの職場では、誰かが会社の現金や預金を横領してしまう可能性はありますか?」

   この質問に「いいえ」と答えた方は、その理由を挙げていただきたい。

   「うちの職場には、現金や預金のやり取りは一切ないから」という理由であれば、確かに横領が起きるリスクはゼロかもしれない。しかし、「そんな職場はない」と言えるのではないか。

どんな職場にもリスクはある

まさか、あの人が・・・
まさか、あの人が・・・

   もしかしたら、会社内に現金を一切置かない会社はあるかもしれない。しかし、どんな会社も少なくとも1つは預金口座を開いており、そこには毎日のように入出金取引が発生するだろう。それらの取引は、伝票を記入して銀行窓口で行うかもしれないし、キャッシュカードを使ってATMで行うかもしれないし、オフィス内からインターネットバンキングを通じて行うかもしれない。いずれにしても、誰かが資金を動かすことになる。

   「確かにそうだが、うちの職場の人間は、会社の現金や預金口座には一切タッチできない」という理由もあるだろう。しかし、どんな職場でも、出張旅費や備品購入などの立替え払いは発生するはずだ。経費を不正に請求すれば、それも立派な横領である。そう考えてみると、どんな職場にもリスクはあると考える必要がありそうだ。

   次に考えられる理由は、「うちの社員に限って」「私の部下に限って」横領などするはずがないという理由、または「うちはきちんとチェックしているから」というものであろう。

   しかし、世の中を騒がせる横領事件の多くは、周囲からはまじめと思われている人が、信頼を逆手に取ったり、チェックの甘さを突いたりして、人知れず何年間にもわたって行っていたというケースが多い。その結果、不正が発覚したときには、周囲は「まさか、あの人が」とショックを受けることになる。

定期的なリスクの洗い替えも必要

   したがって、横領を未然に防ぐためには、まず、上記の質問に「はい」と答え、具体的にどのような形で横領が発生する可能性があるかを洗い出す必要がある。社内で資金が動く限り、横領のリスクは目の前にあるのであり、どんな人間でも、プレッシャーや不満から良からぬことを考えてしまったり、ついついチェックが甘くなったりしてしまう可能性があるのである。情報の取扱いについても同じことがいえるだろう。

   リスク管理の教科書では、そのような考え方を「固有リスク」という言葉で表現している。固有リスクというのは「会社がチェック体制を全く整備せずに、社員に現金・預金の処理を任せたら、どのような不正が起こる可能性があるか?」という発想である。現実的ではないが、あえてそのような発想をすることで、想定外をできるだけなくすのである。

   その上で、洗い出したリスクに対する現状の備えは十分かどうかを見直さなければならない。現金が入った手提げ金庫は常に厳重に保管する、現金や預金の取扱いを1人に任せない、取引記録や残高を取扱者以外の社員が頻繁にチェックするなど、当たり前の管理を徹底できているか?人事異動や就業環境の変化によってリスクは絶えず変化するので、定期的なリスクの洗い替えも必要だ。

   リスク管理に「あり得ない」は禁句である。不正は「あってはならないこと」だが「あり得ること」だという健全な危機意識が必要である。大切な社員を疑ってかかるのは不健全かもしれないが、任せきりにしてしまうと、結局社員を不幸にしてしまうこともある。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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