「推薦枠」なのに選考落ち続出 就活戦線に要注意の新潮流

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   今回のテーマは「推薦枠」。

   就活における推薦枠とは、企業側が大学・短大などに推薦枠を用意。大学側は学内で選考をやって、推薦学生を決めます。

   もともと、大卒の就活はこの推薦枠に入るかどうかが重要でした。それが、1960~1970年代にかけて、文系総合職では、自由応募が主流となり、現在に至っています。

   推薦枠ということでは、女子大の一般職、それから理工系大学院の研究職・技術職などで今なお残っている、はずでした。

   もっとも、今(2015)年はちょっと異変が起きています。

慶応・一橋が就職に強いのは「推薦」の伝統

君、推薦!
君、推薦!

   昔から現在に至るまで、慶応義塾大や一橋大は就職に強い、と言われ続けています。

   その理由の一つが企業の推薦枠です。

   慶応義塾大や一橋大は、大学の就職担当(嘱託)が面談するか(慶応)、大学教員による推薦委員会が学生の就職希望と求人側の採用希望を一致させたうえで、推薦学生をそれぞれ決めていました。

   ところが、東大と早稲田大は違いました。

「求人側の注文数にはおかまいなく、行きたいというやつはみんな推薦する、というので、こんにち同様評判がよくなかった。ある会社では、東大と早稲田だけは、あらかじめ書類選考をして、まずしぼった上で試験をした、という。この辺も、伝統は恐ろしいものである」

(『日本就職史』より引用)

   推薦枠があるのに、それをまた書類選考をやるのですから、よっぽど不評だったことが明らかです。

   文系総合職については、推薦枠がほぼ消滅した今も、一橋・慶応は就職に強い伝統を引き継いでいます。

理工系、女子大では残る

   総合職ではほぼ消滅したはずの、推薦枠。

   いまだに残っているのは理工系の技術職・研究職。それから、女子大中心の一般職です。

   理工系の場合、民間企業出身、または、民間企業と共同で研究をしている教員が多数います。そうでなくても、理工系学部の院生が所属するゼミ(または学科、学部全体)に推薦枠を用意するメーカーが多数。中には、ナビサイトに一切出稿せず、ゼミ訪問だけで内定学生を確保する、そんな企業もあります。

   理工系の場合、この推薦枠が就活の中心となります。もちろん、自由応募でもいいのですが、その場合、ゼミ教員に断る必要があります。中には、自由応募をあからさまに嫌がる教員もいるようです。

   女子大の場合、大学所在地の地元の金融機関やメガバンク、生命保険、地元メーカーなどが中心。

   女子大によっては、経済学部のある共学校よりも金融業界への就職率が高い大学があります。これは総合職採用が少なく(大学によってはゼロかひとケタ)、一般職採用が中心。それも推薦枠によるものです。

学生と企業・大学間ですれ違いも

   推薦枠というからには、出す企業側は、専願を想定しています。つまり、内定が出た時点で、就活終了。他社の選考は受けないことが大前提。もし仮に他社内定が出てもそちらを辞退して当たり前。

   ところが、この専願を理解しない学生がそれなりにいます。

「大学受験の推薦入試と同じ、受けるだけ受けてもいいんですよね?」

   大学の推薦入試も本来は専願ですが、昔に比べ、かなり基準が甘くなっています。その悪影響が就活に出てしまっています。

   ここでトラブルになると、大学にとって企業からの推薦枠が減ることになります。そのため、学生が推薦枠で志望する場合は、2度、3度と専願であることを繰り返し強調するとか。

   それでも、土壇場で推薦枠を辞退する学生もいるわけで、この辺、苦労が絶えません。

推薦枠決定は前年度踏襲から意外な理由も?

   ところで、この推薦枠、どうやって決まっていくのでしょうか。

   取材していくと、圧倒的に多かったのが「前年度からの踏襲」。

   西日本某県の地方銀行は、地元の国公立大に推薦枠を設けています。

「なんで、と言われても、前年度からの踏襲ですね。経済系学部がある、というのも理由ですが、行内に出身者も多いので、わざわざ外す理由もありませんし」

   東日本の信用金庫は、本店所在地に近い女子大に推薦枠を出しています。

「真面目な女の子が入っていますし、特段、増やす気もないですが、減らす気もありません」

   調査していくと、意外な理由で推薦枠を決めている企業もありました。某運輸会社がスポンサーとなった映画でロケ先がなかなか決まりませんでした。何件も断られたあと、ある高校に話を持ち込んだところ、

「ロケ先としてお貸ししてもいいが、推薦枠をくれ」

   この運輸会社はその高校に推薦枠を出したそうです。映画の撮影が終了し、この無茶ぶりをした進路担当教員もその高校からいなくなって、10年以上経ちます。が、この高校には、今もその運輸会社からの推薦枠が残り、就職しています。

   他にも、元は政治家や学校法人経営者、寺院、有力OBからの働きかけ、というのは山ほどあります。

推薦枠が「乱発」される理由

   今年、2016年卒採用でちょっと話題になっているのが、金融業界の推薦枠乱発です。

   女子大だけでなく、共学校にも、推薦枠を乱発。女子大によっては、例年の倍以上出しているところも。

「去年のうちの希望者の倍、推薦枠を出してきた金融機関もありました」

とは、関西の某女子大キャリアセンター。

   それだけ、推薦枠を出すとは、さすが金融。好景気を反映している、と思いきや、そうではありませんでした。

   推薦枠で安泰だったはずの学生がボロボロ落ちているのです。

   かつての早稲田大や東京大のように、大学が推薦枠を乱用しているわけでもありません。

   取材を進めていくと、意外な事情が判明しました。

   なんと、リクルーターや採用担当者個人が勝手に出しているだけなのです。

   推薦枠を用意するから、その代わり、他の企業を受けるな、と言えば、学生や大学はその気になります。

   これで推薦枠がなければ、やっていることはオワハラと非難されかねませんが、推薦枠と一言付け加えるだけで、もっともな要求かな、と印象はがらりと変わります。

   うどんに、ゆず胡椒を入れるだけで味が変わるようなものですね。

「オワハラ」が減った理由

   面接を担当する役員や部長クラスには、この「勝手に推薦枠」を伝えていません。

   事情を知らない役員・部長は、普通に面接をして、普通に落とします。

   推薦枠で内定と思い込んでいた学生には、

「役員が(あなたを)気に入らなかった。そもそも、推薦枠と言っても内定を確約した覚えはない。内定を確信したのはそちらの勝手」

と言い逃れます。

   これも、内定取り消しスレスレの話です。

   かくて、オワハラと非難されることもなく、内定取り消しと非難されることもなく、役員面接まで一定の応募者数を揃えることができます。

   今年は当コラム以外でも各マスコミから文部科学省の報告書まで、嫌な顔をした程度でもオワハラと大騒ぎになりました。

   それもあってか、昨年まではオワハラをやって当たり前の金融業界でも、表立ったオワハラがなくなりつつあります。

   30年以上の長きにわたって、オワハラを続けていた金融業界も、ようやく学習能力がついた、と言うことでしょうか(別に、毎年のように内定辞退者を責めて、それで未来の顧客をどれだけ逃しているのか理解できない無能のバカどもめ、とは誰も言っていません)。

   ただし、変に小ずるくなったな、という印象があります。

   無能がいいか、狡猾がいいか、そこはまた議論の分かれるところ。

   いずれにせよ、「勝手に推薦枠」に惑わされないよう学生の皆さんはご注意を。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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