2024年 4月 18日 (木)

「若者は会社の飲み会が嫌い」は幻想? ギスギス職場が生まれ変わったワケ

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   関東某県を中心として携帯電話販売店チェーンを展開するH社。業容拡大に伴い、ここ1年で東京近郊へも相次いで出店を計画しました。スタッフはH社の地元地域で採用し経験を積んだ者を配置しましたが、当初の社長の心配は、「店長は30代後半、スタッフはほとんどが20代の独身。遠隔地で管理が不行き届きになり、若いスタッフばかりの店舗運営に支障か出ないか」でした。

   携帯販売店は若い店長が切り盛りすることが多く、慢性的な繁忙から人間関係がギスギスしがちです。いじめやパワハラ、協力姿勢の欠如などから定着率が悪化して、結果、サービスの低下が起きて顧客からのクレームが増えるなど、悩みが絶えないのが実情なのです。

アパート一棟借りの社宅で、多くの社員が同じ生活

飲み会が復権中!?
飲み会が復権中!?

   ところが新店の2店は、フタを開けてみれば他店に比べてスタッフの定着率は驚くほど高く、来店客からの評判も上々。業績も滑り出しは予想上回って順調でした。社長から「理由はよく分からないが、2店舗に共通する、運営がうまくいく秘訣があるのなら他の店舗に役立てたい」という話が出て、急きょ現場ヒアリングを行うことになりました。

   店長へのヒアリングでは、これといった収穫はありませんでしたが、スタッフへのヒアリングで、従来の店舗ではあまり聞かれない話が出てきたのです。

   A店20歳女性一般スタッフの話。

「職場以外にもスタッフ同士で話をする機会が多いので、他の人たちが何を考えているのかよく分かって、仲間意識が以前の職場よりも強く感じられるようになりました。前の職場よりも明るく感じられるのは、単にお店が新しいからだけではないような気がします」

   B店24歳女性リーダー格スタッフの話。

「はじめての一人暮らしなのですが、毎日楽しいです。アパート一棟借りの社宅で、多くの社員が同じ生活をしているので、みんなで食事に行ったり仕事帰りにお酒を飲みに行ったり。本店勤務時と全然違うので、こちらの勤務を希望してよかったと思っています」

   A店28歳男性管理役職者の話。

「店舗オープンから半年ですが、辞めるスタッフがほとんど出ていません。一人暮らしが多いからなのか、不思議と共同生活的なムードで和気あいあいとできている感じがします。我々管理者もすごく楽です。みんな、元の店舗には戻りたくない、って言っています」

   B店の管理者からも、A店管理者と同じような話が聞かれました。みんなの話を総合し、キーワードになりそうなものをまとめて整理すると、「一人暮らし、共同生活という状況下で、仲間意識が生まれ、仕事以外でも対話の機会が増えた」、そんな感じです。

一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりする頻度が増える

   従来の地元店舗と、東京近郊の新店舗の違いをまとめると以下のようになります。

   1:従来店は自宅から通勤。新店は借り上げ社宅から通勤(一部自宅勤務者あり)。

   2:従来店は基本、家族と同居。新店は基本一人暮らし。

   3:従来店はマイカー通勤。新店は、電車あるいはバス通勤。

   「1」で注目すべきは、部屋こそ違えどもスタッフの大半が同じ場所から通勤し、職場も自宅も同じ環境を共有し、共通の話題が増えたであろうこと。

   「2」では、一人暮らしになったことで、身近な話し合い相手として職場の仲間の存在が近くなったであろうこと。

   また、「3」では仕事帰りに複数のスタッフが一緒に帰宅できる。それにより一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりする頻度が増えるようになったこと。

   「1」は間違いなく、住環境にかかわる共通の話題が増えることになります。「2」は、私も一人暮らし学生が多い地方での大学生活で経験がありますが、「遠くの親戚より、近くの友」であり、自宅生よりも間違いなく一人暮らし同士の関係は近しいものになります。「3」は、行き帰りが確実に一人という車通勤の最大の弱点。突然の寄り道はまず起こらないのです。

コミュニケーションは量が質をつくる

   こうして見てくると結局何が変わったのか、といえばスタッフ間のコミュニケーション量の増加に他なりません。「コミュニケーションは量が質をつくる」という組織活性化に向けた定石に従えば、H社の新店舗はスタッフが遠隔地で単身勤務することより、図らずもコミュニケーション量が増えて、スタッフ相互に親近感が湧き仲間意識が強くなり協力体制が強化された、そう結論づけられるヒアリング結果でした。

   調査報告を受けたH社社長は、この新設2店舗における職場運営への社員間のコミュニケーション効果を大きく評価し、「地元店舗でも、会社が社員の帰りの代行運転費用を持ってでも、各職場での食事会や飲み会を定期的に企画する」と前向きな対応を決断しました。

   最近ある大手商社では、以前廃止した社員寮を復活したそうです。一見、時代逆行とも思える寮復活ですが、寮生活で社員同士が部門を越えて自然にコミュニケーションを交わす機会をつくることで、将来を担う若手の仲間意識を高め、同時に部門間のコミュニケ―ションを円滑にしようという狙いだとか。仕掛けをもって今どきの若手のコミュニケーションを活性化させ組織の円滑な運営に生かすのは、むしろ会社の重要な役割なのかもしれません。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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