2024年 4月 20日 (土)

同僚が突然会社を無断退職 激怒した上司は「損害を償え」と息巻くが
【「フクロウを飼う」弁護士と考える】

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   新年度になり、真新しいスーツに身を包んだ新入社員たちが入社し、そろそろ1か月が経とうとしていますね。ネットを見ていると、すでに「会社に行きたくない」や「仕事についていけるのかが不安」といった彼らの声も散見されます。中には「会社の新人が突然来なくなった!」という上司や先輩社員の書き込みも見られ、なんと入社数日~数週間でいきなり出社しなくなる新入社員もいるようです。今回は、会社を無断退職するそんな「バックレ社員」について解説します。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

事例=同僚が突然プロジェクトを放り出し行方不明に

部屋はもぬけの殻
部屋はもぬけの殻

   職場の同僚が、昨年来、大きなプロジェクトを進めていました。時たま、彼の相談や愚痴に付き合っていたのですが、相当大変だったようです。とうとう、その同僚は先週から会社を無断欠勤し、連絡がつかなくなりました。彼が休んだ日には、進めていたプロジェクトの大切な会議があり、無断欠勤で会社に莫大な損失が出てしまったようです。上司たちは、「もしかして・・・!」と、最悪のケースを見越してその同僚の家を見に行ったのですが、届けられていた住所の部屋はもぬけの殻。すでに引っ越しており、その後数日経って、実家にいるのを突き止め、ようやく連絡が取れたそうです。上司は激怒しており、同僚が出した損失を絶対請求してやると息巻いています。こういった場合、会社は賠償を請求できるものなのでしょうか。

弁護士回答=会社の進め方に無理があったか否かで分かれる判断

   同僚が急に無断で会社に来なくなってしまうと、体調の異変や生死の心配をしてしまいますよね。同僚の方が見つかってホッとしたのもつかの間、職場内にトラブルが起こって大変でしたね。今回のケースのように、仕事に穴をあけて損失を出してしまった場合、法律上どのようになるのでしょうか。

   お勤めの会社に就業規則がある場合、たいていその中に懲戒解雇が定められています。懲戒とは、平たく言えばお仕置きのことですが、このお仕置きとしての解雇が認められるためには、どのような要件を満たす必要があるでしょうか。

   解雇されると、一方的に仕事を奪われるという大きな影響がありますので、むやみやたらに解雇ができるものではありません。そこで、労働契約法は、合理的理由がなく、社会通念上相当でない解雇は無効としています(労働契約法16条)。

   この規定の趣旨からすれば、ただ会社を休んだという形式的な理由だけでは解雇することができず、無断欠勤の期間、正当な理由の有無、業務に与えた影響、出勤督促の有無などを考慮し、その上で解雇の有効性が判断されます。

   詳しい事情は分かりませんが、今回の件では、同僚の方は大きなプロジェクトを進めて相当大変そうだったということから、プロジェクトのために無理な仕事を続けた結果、うつ病などを発症して会社に行けず、連絡もできなくなってしまった可能性があります。

   会社は従業員の健康に配慮する義務があるのですが(安全配慮義務)、もし会社が数百時間も残業させるなどした結果、従業員がうつ病を発症して会社に行けなくなったとしたら、この無断欠勤は会社が自ら招いた、いわば自業自得ともいえる事態ですから、懲戒解雇はなかなか認められないでしょう。労基法19条1項も、労働者が業務上負った怪我や病気が治るまでは原則として解雇できないと定めていますし、このような場合、会社は従業員を懲戒解雇することが基本的にはできません。

   一方、そのような事情がなく、無断で数週間も欠勤し、会社の出勤督促にも応じず、欠勤によって業務に大きな支障が出てしまったような場合は、解雇は有効となるでしょう。

   従業員が必要な注意を怠って労働契約上の義務に違反したような場合、その人は会社に対して債務不履行にもとづく損害賠償責任を負うことになります。しかし、常に責任を負わされるとなると、会社に比べて圧倒的に経済力に乏しい従業員にとってあまりに酷です。裁判例では、従業員の義務違反が認められる場合でも、故意や重大な過失があるときに限って損害賠償責任の発生を認めたり、仮に損害賠償責任がある場合でも、請求できる賠償額を制限したりすることが一般的です。

保障されている「退職の自由」

   今回のケースでも、従業員が無断で休んだことや損害が生じた原因が、会社と従業員のどちらにあるかによって、損害賠償請求ができるかどうかや、その額が大きく変わってきます。もし会社が無茶なスケジュールでプロジェクトを組んだ結果、従業員が数百時間もの残業を強いられてうつ病にかかってしまったと場合ですと、会社の責任が大きいと認められます。そうなると、会社も安全配慮義務に違反したと言えますから、会社は同僚の方に対して損害賠償を請求できないか、できたとしてもわずかな額にとどまるでしょう。

   日々の業務があまりに忙しく、残業が続いたりして「仕事を辞めてしまいたい」と考えたことがある人は少なくないと思います。しかし、無断退職は社会的に決してほめられた行為ではありません。

   そもそも、労働者には「退職の自由」がしっかりと保障されており、会社にはこれを拒否する権利はありません。無断欠勤しか選択できなくなるほど心と体が追い詰められる前に、勇気を出して行動することをおすすめします。

   ポイント2点

   ●無断欠勤を重ねると、懲戒解雇を言い渡される可能性がある。しかし労働者が解雇を拒んだ場合、会社を休んでいるという理由だけでは、合理的理由がなく、社会通念上相当でないとして解雇は無効になる。

   ●会社から従業員に対する損害賠償請求は制約があり、故意や重大な過失があるときに限られる。また、金額においても、会社と従業員の責任を考慮し決定されるが、わずかな額にとどまることが多い。

岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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