悪に手を染めた者はしっぽを出す その6大兆候を見逃すな

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   フツーの人は、不正をすると良心がとがめ、発覚を恐れて不安になる。そのような心理状態は、その人の言動や表情などに何らかの変化をもたらす。

   観察力が鋭い人は、部下、同僚、上司のそのような変化、つまり「不正の兆候」を鋭く察知できるだろう。理想的には、不正の動機となるプレッシャーや不満の高まりによって生じる兆候に気づければ、不正を未然防止することもできる。しかし、現実には不正が発覚してから「今思えば」「あの時きちんとチェックしていれば」と後悔するパターンが多い。

どうやって感度を高めるか

「分不相応」にはまり込み
「分不相応」にはまり込み

   そこで、会社として不正対策を強化するためには、そのような兆候に対する従業員の感度を高める努力が必要だ。では、どうしたらそのような感度を高めることができるのか。その第一歩は、不正の兆候にはどんなものがあるかについて認識を高めることだろう。

   このコラムではおなじみの公認不正検査士協会(ACFE)では、会員を対象とした国際的な不正の動向調査を2年ごとに行い、その結果を公表している。その中に、不正を犯した者が示す言動面の兆候(behavioral red flags)が掲載されており、感度向上の参考になる(過去の報告書の日本語版は、日本公認不正検査士協会のウェブサイトで閲覧可能)。

   では、ここで問題。ACFEの最新の動向調査(2016年版)において、最も多く見られた兆候は何か。

虚栄心をくすぐられ

   正解は「分不相応な生活ぶりが目立つ」である。要は、身の程知らずのぜいたくがやめられず、会社のカネに手をつけてしまうというパターンだ。

   問題は、そのような兆候にどうしたら気づけるかだが、最近公表されたある上場企業の不正調査報告書に典型的な例が記されている。

   報告書によると、子会社の常務取締役Aが、下請業者に過払いをしてキックバックを受け取るという手口で、5年以上にわたって約6億円を横領したが、その動機は「分不相応な生活」を絵に描いたようなものであった。

   Aが友人に連れられて都内の接待飲食店に行ったのが事の始まりだった。その後、Aは店からしつこく誘われて一人で行くようになり、「高級感のある店の雰囲気にひたり、接待を受けながら歓談する財界や芸能界の著名人と同様な接遇を受ける状況に、虚栄心をくすぐられ」足しげく通うようになっていった。そして「高額な酒を頼む等するたびに、褒めそやされ、持ち上げられる快感に酔うようになり、金銭感覚が麻痺していった」。

   その後、Aは「身なりも見栄えを良くするため、高級スーツを購入し、当該店主催のゴルフコンペなどに参加するために、高級外国車をリースで取得する」ようになり、やがて「月間で500万円超を費消するようになっていった」と調査報告書は続く。

   虚栄心をくすぐられて「分不相応な生活」にはまり込み、それが高級スーツや高級外車でのゴルフ三昧という行動に表れていった。会社役員とはいえ、こんな贅沢な暮らしは明らかに異常である。

トップ6は不変

   ちなみに、不正の兆候の2位以下は(2)カネに困っている、(3)発注先や顧客と異常に親密な関係にある、(4)不誠実な態度が目立つ、(5)仕事を分担したがらない、(6)離婚など家庭の問題を抱えていると続く。ACFEによれば、トップ6は調査開始以来変わっていないそうだ。

   これらの6つには因果関係があるといえるだろう。例えば、Aは浪費を続けてカネに困り、下請業者との親密な関係を悪用してキックバックを受けていた。さらに、不正が発覚しないよう、会社の経理はすべて1人で仕切っていたと考えられる。

   この上場企業は、親会社による子会社取締役の監視強化、子会社取締役のローテーション短期化などの再発防止策をとるそうだ。それに加えて「不正の兆候への感度向上」トレーニングを全役職員に実施し、兆候に気づいた者がすぐに会社に伝えられるようにすることを勧めたい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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