工場ライブでものづくり現場に活気を! 関西流コンサルの肝はここ

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   「関西に、ロックバンドで乗り込んで工場現場でライブをやって中小企業を元気づけている、一風変わった企業コンサルタントがいるのをご存知ですか」

   少し前に知人からこんな話を聞きました。

   中小企業の工場でロックバンドのライブ? 企業コンサルタントが? 驚きのお話に、どちらかと言えば同業者としてのやや眉唾の気分から、どんなコンサルティングなのか実態を知りたい、できれば見てみたい、そんな思いを抱いたのは確かでした。

   するとその数か月後に、ひょんな縁から人を介してそのコンサルタントE氏とお目にかかることができ、遂に先日、噂の工場ライブの現場に立ち会うことが叶いました。E氏は生まれも育ちも大阪という生粋の関西人。初対面の私に工場ライブについて、軽妙な関西弁で説明してくれました。

単なるライブちゃいまっせ

工場が、バーベキューが熱く燃える!
工場が、バーベキューが熱く燃える!
「はじめにゆうときますけど、これ単なるライブちゃいまっせ。セミナーですさかい。正式には、工場ライブセミナー言います。僕はミュージシャンちゃいます。これまでバンドなんてやったことありまへんし、楽器かて弾けません。ただ音楽は好きです。音楽には不思議な力がありますよって。コンサルタントやさかいに、バンドライブの形式を借りて音楽を通じた企業コンサルティングのセミナーやっとるってことですわ」

   何でも中小企業を応援する社歌を鼻歌で作り、それを友人のバンドマンに演奏をつけてもらったことがきっかけでバンドが結成されたのだと。その流れで、いっそライブでものづくりの現場を応援してしまえ、と始まったのが、この工場ライブセミナー。関西地区で、あえて会場は工場にこだわり、5年間に10社の工場でライブセミナーを成功させてきたと言います。

   今回初めて関東の企業で開催することになったので、まずは見てほしいということになりました。会場は、東京下町で約90年の歴史を持つ老舗化学製剤製造S社のケミカル工場。従業員は総勢約30人。どこからどう見ても外観は中小企業の工場そのものですが、ステージが作られ、椅子席がずらりと並べられ、アンプやらマイクスタンドやら照明やらが設えられてすっかりライブハウスの様相です。来場客は基本口コミのみの約100人。満席です。

   ライブは、なぜか合間にバーベキュータイムをはさんで、トータル5時間の長丁場を予定。演奏する曲は全てE氏のオリジナル。しかも内容は、E氏作のS社社歌をはじめ、中小企業の現場やあるいは経営者の思いや悩みをおもしろおかしく歌ったものばかりです。始めのうちは、初めて聴く曲ばかりで本当に歌の内容が聞き取れるのか心配でしたが、全曲とも歌詞がスクリーンに映し出され、その歌詞を読むだけで十分セミナーの意味があるのだと徐々に分かってきました。

バーベキューに秘密がある

   演奏の合間の休憩時間にE氏を捕まえて、「現場従業員の日々の葛藤や、会社と従業員に寄せる社長の思いを歌で共有するという、ライブセミナーの真髄を実感させてもらっています」と話しかけました。すると彼からは意外な答えが返ってきたのです。

「いやいや大関さん、それももちろんですが、一番のポイントはそこちゃいますよ。この後のバーベキューにその秘密の一端がありますよってに、よく見とってくださいね」

   バーベキュー? ほどなく、その意図がよく分からないまま始まったバーベキューは、一見なんの変哲もないものでした。しかしよくよく見ると、その場を仕切っているのは全てS社の社員の皆さん。普段は工場で働く皆さんが喜々として、素材を用意し、配置し、焼き、配膳し、来場者を接待しているのです。

   聞けば、バーベキューだけでなく工場の事前清掃も、会場設営などの準備も、集客も、受付も、当日の運営までもすべて社員の皆さんが主体的に進めてきたのだと。なるほど、このライブセミナーの真の主役は実は彼ら従業員であり、E氏のライブセミナーのコンセプトは、「ものづくりの現場にもっと活気とエネルギーを」だったのです。

「S社長は昨年社長に就任した三代目。企業も90年続くとやはり刺激がのうなってきます。しかも技術系は普段外部との接点が乏しいよってに、沈滞ムードになりがちなんですわ。三代目は自分の代で会社が下向きになったらアカン、現場のムードを変えなアカンと思って相談に来てくれました。セミナーの肝は歌だけやない、工場にぎょうさん人呼んでスタッフ全員でおもてなしすることで、ものづくりの現場力が一層大きくなるですわ」

予定時間を大幅超過

   バーベキューをはさんで後半になだれ込んだライブは、演奏者、観客、従業員が一体となっての大盛り上がりのうちに終了しました。気がつけば午後6時。なんと予定を大幅超過の6時間のロングランでしたが、興奮冷めやらぬ会場の一体感の中では、少しも長さを感じさせないものでした。素人のライブでこんな感覚はめったに味わえません。終了後は、抱き合い、握手し、大成功をたたえ合う従業員たちの姿がそこここで見られました。

   ライブセミナーを無事終えた主催者S社社長のもとに駆け寄り、直接話を聞きました。

「準備、会場運営、来場者おもてなしに至るまで、普段の工場労働ではかなかな見えない社員の結束力に感動しきりです。素晴らしい社員たちに囲まれていることに心から感謝しました。社員にも大きな自信になるでしょうし、経営者として私も当社の新たな展開に向けて身の引き締まる思いです。本当にこのライブセミナーをやってよかったです」

   聞きかじった当初はなんとも違和感を覚えた工場ライブセミナーでしたが、製造業において経営者と現場の結束を固くし、現場を活性化させるヒントに溢れていると実感した次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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