2024年 4月 20日 (土)

「会長、何とぞ『お気持ち』を」 気を揉む2代目にデータ示すと

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   4年ぶりにお目にかかった医療関連機器製造K社2代目社長M氏。ご自身お元気そうでしたが、会長である先代も負けず劣らずお元気なようで、モヤモヤの晴れない様子がうかがえました。

   創業者である先代は、10年ほど前に社長職を息子のM氏に譲られたものの、会長として最高決定権を持ち続け、何事においいても社員はまず会長の意向をうかがうという状況が続いているのだといいます。

父もそろそろじゃないのか

この先どこまで続くのやら
この先どこまで続くのやら
「会長は天皇陛下と同じ歳なのですよ。僕もたまたま皇太子様と同年代。今般、陛下が象徴としてのご公務についておことばを述べられましたが、それを見て、同い歳の父もそろそろじゃないのかと改めて思いました。息子の私から見て、体力や思考力に衰えを感じますし。自分から『お気持ち』を発する気になってくれないものかと」

   天皇陛下と一企業の実権者を比較対照の土俵に持ち出すのもどうかと思いますが、永続的な地位にある者が引退するタイミングの妥当性を吟味するという点では、共通する面があるかもしれません。それは、トップ自身が考える限界と、周囲が考える限界というふたつの判断をすりあわせて引退時期の妥当性を探るべきだという考え方です。

   天皇陛下の場合は、ご自身が年齢的、体力的な限界をお感じになられたわけで、周囲にそれが見えていようといまいと、ご退位の潮時であることは間違いありません。だから国民の多くが大いに頷きながら陛下の「お気持ち」を受け止めたのでしょう。これは、企業トップ自らが引退の潮時だと判断する場合と同じでしょう。

   問題はM氏のご父君のようなケース、高齢になろうとも自身が限界を感じることなく変わらずに働いている場合です。この場合の判断基準は、周囲の目から見てトップとしての限界が来ているか否かでしょう。言い方を換えるなら、「世論」すなわち社員の意見として、「年老いた会長にはもはやついていけない」という声が大勢を占めているなら、自身が限界を感じていなくとも、すでに引退の潮時だといえるでしょう。

   M氏は会長のことを、「80歳を過ぎてからは、体力や思考力に衰えを感じさせられる」と言っていますが、果たして他の社員もそう見ているのでしょうか。そこがポイントであると思った私は、M氏に尋ねてみました。

そこまで行けるのは「選ばれし人」

「いやいや、それはないでしょう。私が父の衰えを感じるのは、あくまで父と息子の間柄でのお話です。会社に出れば人が変わったように元気一杯ですし、毎日社員に対して訓示を垂れたりダメを出したり。社員には20年前と何ら変わらぬ姿に映っていると思います」

   なるほど、会長自身限界を感じることがなく、かつ引退せよとの「社内世論」も盛り上がる気配がないのであるなら、M氏のご父君は経営者として引退の潮時にあるとはいえない、と私は思いました。家にいたくないから、辞めたらすることがないから、そんな理由で実権者の座にしがみつくような企業経営者は即刻引退すべきですが、変わらぬ気力をもって組織の舵取りにあたる経営者をその年齢だけで厄介者扱いするのは、正しい判断ではないでしょう。

   このことは、ある調査データも物語っています。

   大手証券会社調べによる「経営者の年齢別企業収益率」というデータでは、年齢が80歳以上の経営者が率いる企業の収益率が最も高く、逆に一般的に社長適齢期といえる50~60代経営者の企業が最も低かったのです。ちなみに40代以下では、若いほど収益パフォーマンスが上がっているので、全体としての年齢別のグラフはU字カーブを描いているのです。

   高いパフォーマンスを維持する高齢社長は、凡庸な人間ではありえません。特別な生命力や多様な経験に基づく卓抜した経営能力を維持できなければ、80代になってまで経営者を続けることはできません。ある意味、彼らは「選ばれし人」と言ってもいいでしょう。そのレベルに達しない経営者は50~60代までに淘汰されると見ていいのかもしれません。

   スムーズな事業承継を考える際に、早め早めに後継に実権を譲って先代は潔く身を引くべきというのは、当コラムでたびたび申し上げている私の持論でもありますが、元気で力溢れる者にまで強引に引退を促すべきか否かというのは、また別の問題です。

   80歳を過ぎてなお社員を引きつけ組織を引っ張る、真の経営者魂を持った経営者は、後継にとっては、なかなかお目にかかれない素晴しい手本のようなものです。M氏はいたずらに会長の早期引退を望むのではなく、学ぶべきを学び、実権をいつ引き継いでもいいように準備も怠らない、それが立派な会長を戴く社長の務めかと思いました。

   私と意見を交わした後、M氏は、

「会長を年老いた父としか見られず、選ばれし経営者とは思ってもみなかった私は、まだまだ経営者として未熟ってことですね。天皇陛下も後を継ぐ皇太子様を信頼なさっているからこそ『お気持ち』を表明されたわけであり、私も会長が安心して後事を託せるような社長にならなくてはいけないわけですね」

とモヤモヤが少し吹っ切れた様子でした。その姿勢で臨むなら、会長の「お気持ち」表明は意外に近いかもしれません。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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