わが「ヒモさん」は仏僧の如し 欲のなさたるや主人とは大違い

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   ほぼ収入のない、元ホストの「ヒモ」を飼うようになって1年と数か月。女の自己満足を叶えてくれる彼のことを、私は敬意を込めて「ヒモさん」と呼んでいるが、なぜ私レベルの収入でもヒモを養えるのか、遅まきながらようやく分かった。ヒモさんは、まれに見る「金のかからない男」だったのだ。

  • 星を見れば満足とは安上がりな
    星を見れば満足とは安上がりな

趣味が天体観測と釣りとは安上がり

「やべぇ、ちょっと車停めていい!?」先日、2人で石川県の田舎をドライブしていたときのこと。日がとっぷりと暮れて、澄んだ空には星が浮かんでいた。ヒモさんはテンション高く、車の外に出て空を見上げ始める。

「やっぱ、東京の空と全然違うわ、すげぇ!」

   彼は裸眼1.8の視力を存分に活かして、天体観測を楽しんでいるのだった。なんとかの位置にシリウスがあって、アルタイルがどうで、あの星とこの星を組み合わせると「冬のダイヤモンド」と呼ばれるなんとかが出現する、とか、やたらと天体に詳しい。スマホの無料アプリで星の位置を確認し、ニコニコと嬉しそうだ。

   ヒモさんの趣味は「天体観測」である。かかる費用、ゼロ円。あとはよく「釣り」へ行くが、釣り道具は中古で買えば数千円ですみ、何年ももつ。毎回のエサ代は私が負担するとしても、300円ほど。はじめは「え、こんなに安いの?」と驚いた。

   私レベルの収入でもヒモさんを満足させられるのは、彼が徹底して「趣味にお金を使わない男」だからである。これが「アイドルの応援」とか「ゴルフ」「海外旅行」などの、多額の出費を伴う趣味であれば、私などが支えるのはとうてい無理である。

「納豆ご飯がいちばんうまい」

   出会った当初は、元歌舞伎町のナンバーワンホストらしく、女に貢がれた高級ブランドばかり身につけていた。私はそうとう警戒し、「この男に引っ掛かったら、お金がいくらあっても足りないぞ、びた一文払うまい」と身構えたものだ。

   ところが私との生活に慣れると、彼はあっという間に「金のかからない男」に変貌したのである。洋服は若い頃に貢がれた分がたんとあるので、新たに買わなくてもいい。ブランド物にはもともと興味がなく、趣味は前述の通り「天体観測と釣り」なので、私が負担する金額はゼロだ。

   グルメの趣味もないから、食費もかからない。「ホストをやっていた頃は高いレストランに連れて行ってもらっていたけど、結局、納豆ご飯がいちばんうまいんだよね」。納豆ご飯でいいなら、私でも何とかなる。

   ヒモなのに金がかからないとはこれいかに。いや、むしろ「金がかからない」=「理想の生活水準が低い」男だからこそ、誰のヒモにでもなれるのかもしれない。広い部屋も欲しがらず、衣服も食も、質素で満足する。ヒモさんは、消費への欲望に翻弄される私とは大違いの、まるで仏僧のような男だったのだ。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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