2024年 4月 23日 (火)

マネジメントに大手も中小もない! ニュースの見方で経営が変わる

   「いま話題の東芝の事件から、われわれ中小企業経営者は何を学ぶべきでしょうか」――。最近スピーカー役をお引き受けした、「マネジメントの勘所」と題する経営者セミナーの講演後の質疑応答で、経営者の方から質問が出されました。

   過去に話題になった企業不祥事などの実例をたくさん交えた講演であったこともあり、こんな質問が出されたわけです。

  • 経営のヒントが満載!
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「東芝」から得られる経営のヒント

   新聞などのメディアで報道される出来事は、大企業や有名経営者、有名人の話が多く、中小企業の経営には無縁と思われがちなのですが、いろいろなヒントが隠れていることが多くあります。

   この日の演題にはまさにそういう目で、さまざまなニュースを聞いていただくキッカケ作りになればというものだったので、この質問はまさに「待ってました」状態。内心で顔をほころばせながら、回答をさせていただきました。

   「東芝の問題はメディアでは、ガバナンスあるいは上場企業の対投資家責任という観点で語られるケースが多いです。しかし、皆さんにはもう少し平たく、『企業風土を変えることの難しさ』という問題として捉えていただくのがよいと思います。

   一昨年の粉飾決算問題と今回の米原発巨額損失問題の根っこは同じ、『想像力と危機感に乏しい組織風土』です。何か事件が起きた時、その根本原因は自社の組織風土にありはしないか、と疑ってみることは重要です。そして組織風土は社長自らに変える意識がなければ、決して変わりません」

   ある種の職業病なのですが、私は新聞やテレビで企業不祥事をはじめとした、さまざまなニュースを見る中で、「この事件は、先日お目にかかったA社の課題対応策のヒントになるな」とか、「この会見、B社社長見ているといいけど。まさに社長のお悩み解決に通じるコメントだ」などど、思うこともしばしばです。

   講演ではその手の話もいろいろさせていただいたのですが、出席の皆さんの反応は、「ニュースの見方が変わる」「日々世間の出来事を、右から左に流さないことの大切さを感じた」などなど、評判は上々でした。

店長の離職に悩む居酒屋チェーン社長のケース

   せっかくなので、最近のニュースで私の頭に浮かんだ中小企業マネジメント的ヒントの具体例を他にもあげてみます。

   東芝問題と並んで最近メディアを賑わせているのが、ヤマト運輸の人手不足問題です。人手不足への対応として、配達時間の短縮を図るとか、ネット通販大手アマゾンの当日配送を取りやめるとかの対応が報道されました。

   若年労働力の絶対的な不足と、ネット通販の利用拡大による業務量の増加が、職場的にブラックイメージを定着させてしまうことになり、一層の人手不足に陥る悪循環にハマってしまった結果とも言えそうな状況です。

   このニュースで思い浮かんだのは、首都圏で居酒屋を数店舗経営するT社長。先日お目にかかった折にぼやいておられたのが、「人」の問題でした。

   「とにかく人手不足。バイトの定着率も下がっているのだが、より深刻なのは店長クラスでも平気で突然辞めていくという流れ。うちは業界でも待遇はいいはずなのだが、給料を上げて引き止められるものでもない。それと、以前は同業からの店長クラスへのヘッドハントで辞めるケースが多かったが、今は同業ではなく異業種に流れているようだ」と話すT社長。

   まさしく若年労働力に頼る店舗運営は、宅配業界と相通じるものがあります。居酒屋も、顧客ニーズの高度化でメニューが増えて仕込みが複雑になって早出を強いられたり、売り上げの確保と顧客PRの目的でランチ営業をはじめたことでの拘束時間の長期化は如何ともしがたく、労働環境の悪化が人離れを加速しているようでした。

   ヤマト運輸に学ぶ解決の糸口は、一部業務の取り止めも含めた根本的な労働環境の見直し以外にはない、そんな感じがしました。

浅田選手の引退表明に浮かんだベテラン社長の顔、顔、顔

   もう一つ、地域金融機関の経営をめぐるニュースで、金融庁の新しい方針として「脱日本的金融」を掲げたという話。「脱日本的金融」が意味するところは、銀行のこれまでの担保と保証に全面的に頼った融資姿勢を改め、個別企業の事業の将来性をしっかりと捉え共に発展していく事業性評価融資に移行せよと言っているのです。

   評価軸の安全性から成長性への移行。簡単ではありませんが、企業の発展を通じて地域経済を活性化させるために金融庁の方針は至極理に叶った話であり、各銀行の今後の対応に注目が集まるところです。

   この話には、「黙って大手企業から仕事がもらえた昔と違って、今は中小企業でも本気で人を育てないと生き残れない時代になった」とお悩みだった、工作機器製造S社のR社長が思い浮かびました。

   「十年一日の如く同じ仕事を任せて正確さ最優先で評価してきた社員を、どうしたら新しい仕事に積極的に向かわせられるのか」、そんな悩みの解決ヒントが少し見えたような。担当業務の完璧度に重きをおいた今の評価から、新しい業務への取り組み姿勢をもって成長可能性と評価することへの移行が不可欠かと。

   金融庁が事業性評価移行で銀行に方向転換を迫るように、評価軸を変え社員を動かすことの有効性が浮かびました。

   最後に企業ニュース以外でもひとつ。フィギュアスケーター、浅田真央選手の引退表明。これには、多くのベテラン社長方の顔が思い浮かびました。自身のピークアウトを悟り、速やかに後進に道を譲ることの美しさと潔さ。さて、このニュースが己の進退に対するヒントであると気がつく社長が何人いるでしょうか。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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