2024年 4月 19日 (金)

「捨て石」社長が長期政権 じつは重要「受ける力」に必要な心構え

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ウソがバレれば、すべてを失う

   そこでお鉢が回ってきたのが、若手役員のS取締役です。その理由は、彼が広報部長であり、ひとまずは取材地獄の窮地を脱するためのつなぎ役として最適任、と目されたからと言われています。

   副社長も専務も、ここはひとまずS取締役に「捨て石」になってもらい、落ち着いたところで満を持して次期社長のイス争いを再開しようとでも思ったかもしれません。

   しかし、その後の展開は誰もの予想外を大きく裏切るものでした。

   S新社長の堂々たるマスコミ対応はお見事のひと言でした。一切逃げも隠れもすることなく、前社長時代の管理責任と思しき追及にも臆せず、常に前向きな姿勢で会見や個別取材を受けて立ち、この対応で一転。新聞記者たちの信頼を一気につかみました。騒動は急速に終息に向かい、一時期急降下した株価も見事に回復。悪いイメージが漂った分、信用回復後はむしろ底力のある企業という印象を世間に植え付ける結果となりました。

   これがY社を襲った不祥事の一部始終です。私はその後、あるセミナーでS社長の危機管理に関するお話を聞く機会を得ました。その折、セミナー終盤の質疑応答でどうしても聞いてみたかった質問をぶつけてみたのです。

「一大不祥事で逃げたり慌てたりして失敗する経営者が多い中で、社長はどうしてあのように堂々たる対応できたのですか」

   S社長は自信を湛えられた表情で、答えてくれました。

「心構えに尽きます。経営者がどうしよう、どうしょうと慌てふためけば周囲は浮き足立ち悪循環に陥るだけです。とにかく慌てず焦らず、マスコミと相対する心構えを決めることです。正直が一番強い。正直で失うものは何もありませんが、ウソはバレればすべてを失います。正直を忘れずに心構えをするなら、何も恐れることはありません。ウソやごまかしでその場を切り抜けようとするから、慌てたり、焦ったりして取り返しのつかないことになるのです」

   なるほど、強い経営者に求められる「受ける力」とは、結局のところ何事にも正直な気持ちで受けて立つ姿勢でのことなのだと理解した次第です。どこかの国の政治家先生方にもお聞かせしたい素晴らしいお話でありました。

   ちなみに、Y社のS社長体制は長期安定政権となり、今もこの体制下で順調な業績を残しています。件の有事発生時、保身に走って正直さを欠いた副社長と専務は、二人ともすでに退任しています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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