金融庁の「おせっかい」? 投信の信頼性向上に金融機関は・・・

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   資産運用商品として、すっかり定着した投資信託だが、これまでさまざまな商品が売り出され、また、その商品性が複雑なため、販売する金融機関と購入者とのあいだでトラブルになるケースが後を絶たなかった。

   そうしたなか、金融庁の旗振りで少しずつ、投信の信頼性が向上している。

  • 投資信託のトラブル、減ってきているけど……
    投資信託のトラブル、減ってきているけど……
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高齢者の相談多く、16年の相談件数は1014件

   投資信託といえば、大きな損失を出したあとで、販売した金融機関と説明義務違反などで訴訟になるケースが数多く発生している。投信の仕組みはさまざま。複雑な商品性もあって、とくに富裕層の高齢者やその家族とのあいだで問題が発生するケースが少なくない。

   国民生活センターによると、投信販売をめぐっては、その勧誘方法に問題があるものやリスクの説明が不十分であったと思われる相談件数が、2014年度は1034件、15年度は1065件、16年度は1014件で推移している。2017年度は6月末までに163件で、前年同期と比べて33件減った。「減少傾向にはありますが、高齢者の相談が多いので、引き続き注視していきたいと考えています」と、同センターはいう。

   最近の相談事例では、

「入院している母の同意を得て証券会社にファンドの解約の申し入れを何度もしているが、毎回、購入した保険会社が母を説得して解約をやめさせてしまう。どうしたらよいか」
「高齢で寝たきりの父がハイリスクの海外投信に数千万円を投資し、多額の損失が出ていることがわかった。契約当時はすでに判断能力が不十分だったので、騙されたのではないか」
「投資信託を契約している証券会社の担当者が、『この為替レートはもう上がらない』と断定的な表現を使って勧誘をしてきた。このような勧誘は問題ではないか」

といったケースがある。

   その一方、金融機関からも「高齢者は複雑な説明を行っても、なかなか理解してもらえず、説明が長時間に及ぶと面倒臭くなってしまうケースも多々ある」という声が漏れる。

   こうした状況を懸念して、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表。これを受けて投信の設定や運用を行う投資信託委託会社、販売を行う金融機関などは「フィデューシャリー・デューティー宣言」を行い、取り組みを開始するところが増えている。

金融機関が「顧客本位の業務運営」の方針を公表

   「フィデューシャリー・デューティー」とは、他社の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広いさまざまな役割と責任の総称で、その役割と責任を全うすることを顧客に対して宣言、もしくは方針を公表する。

   フィデューシャリー・デューティーには、内部の利益相反といった問題も関わるのだが、ここでは顧客との関係にスポットを当てる。

   金融庁が打ち出している7原則は、以下のようになっている。

(1)「顧客本位の業務運営」を行うための方針を策定し公表する
(2)顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図る
(3)取引に於ける顧客との利益相反の可能性を適切に避ける
(4)金融事業者は顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を情報提供する
(5)金融商品の重要な情報を顧客に正確かつ分かりやすく伝える
(6)顧客の資産状況・取引経験・知識及び取引目的・ニーズに合った商品・サービスの販売・推奨を行う
(7)社員に対する報酬・評価制度を顧客の利益に合う形で制定する

   各社はこの原則に対応するように、手数料や市場動向の情報を開示したり、商品のラインナップを整備・強化、あるいは金融サービスの提供などを進めたりしている。

顧客ニーズ高い毎月分配型「ほしいものを売らないわけにいかない」

   たとえば、顧客と金融機関との訴訟に発展するケースが多く、金融庁が問題視する商品の一つとして、2016年9月の「金融レポート」に取り上げた「毎月分配型の投資信託」がある。手数料が高いことに加え、税制面で非効率であるうえに運用に無理がある、と指摘している。

   なにしろ、「毎月分配」を行うために、運用が低調で分配金が稼げなかった場合には、元本を取り崩して分配を行うからだ。

   販売する金融機関から説明を受けたとしても、高齢者は理解しないまま購入してしまうケースも多く、いざ元本が減少していると販売金融機関とのトラブルに発展するケースが少なくない。

   ある信託銀行の幹部は、「年金の支払いが2か月に1回なので、毎月現金を受け取れる毎月分配型の投資信託に対するニーズは根強いものがある」と指摘する。

   いくら、フィデューシャリー・デューティーを宣言していても、顧客が購入したいと言えば、販売しないわけにないかない。投信を販売する金融機関にとっても、頭の痛いところだ。

   加えて、販売する金融機関側では、投資信託の手数料開示が進み、これまでのように手数料収入を当てにできなくなってきている。

   日銀のマイナス金利政策の影響で、収益力が弱っている金融機関にとって、投資信託販売の手数料収入は収益源の一つでもあったわけだが、投信に対する信頼性の向上のためのフィデューシャリー・デューティー宣言は、金融機関にとっては「痛しかゆし」だったのかもしれない。(鷲尾香一)

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