もしかして分不相応だったの? 「まるでお城」の新居に震えた小3の春

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   小学3年の春、私の家族は石川県の田舎に引っ越し、そこで大きな家を建てた。

   それまで、県中心部にある狭いアパートに住んでおり、その狭さと古さが不満だった私は、ピッカピカの一戸建てへの引っ越しを待ち望んでいた。いざ、お城のように豪華な(と幼心には感じられた)新居を見たときは、踊り出したいような衝動に駆られたものである。

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仮住まい「かやの部屋」からの華麗なる転身

   ところが、同時に9歳の頭に浮かんだのは、「こんなに大きな家を建てて、わが家の財政状況は大丈夫なのだろうか」という不安であった。

   新居で初めて、家族で夜を迎えた日のことは今も覚えている。家族4人で歯を磨きながら、「すごいね」「全部新品だよ!」と当たり前のことを言い合い、ふだんは喧嘩ばかりしている兄弟とも、「リビングが広くて、お父さんとお母さんがどこにいるかわからないね」「いくつ部屋があるか、数えよう!」と、新居の探検に興じた。

   なにしろ、それまでは、築30年、2部屋と台所しかないアパートに家族4人が住んでおり、子供部屋どころか勉強机さえギリギリ置けるかどうかの狭さだったのだ。1人の部屋が欲しくて私は押し入れにダンボールを持ち込み、そこへお気に入りのシールなどを貼り、「かや」と名前を書いて、仮住まいとしていたほどである。そうまでして手に入れたかった1人部屋が、新居で実現したのは最高にうれしかった。

   新しい子供部屋では、カントリー調のおしゃれなベッドが私を待っていた。ダンボールハウスからカントリーハウスへと、華麗なる転身を遂げたのだ。誇張でなく、自分がお姫様になったと思った。わけもなく走り出したいワクワク感にかられる。

得意満面に「新築費用」をべらべらしゃべる

   新築と引越しにともない、転校した先の小学校では、新しくできた友人がすぐに遊びに来た。

   「かやちゃん家って、超広い!」と賞賛する彼女らを前に、得意満面の私は、「この家、○坪なんだって」と披露し、「すごいね~、広い!」とさらに賞賛され、天狗になった。

   友人のひとりが「この家、いくらかかったの?」と聞くので、私は両親にそれとなく尋ね、翌日には「ン千万円かかったんだって! しかも、1回で払ったんだよ!」と、恥ずかしげもなくわが家のキャッシュフローを披露したものである。

   「え~、ン千万円!? 1回で払ったの!? 金持ちだなぁ!」あっという間に、クラスで話題になった。友人の中には、家族に確認したうえで、「ン千万円はすごいことだ」と再認識したことを知らせてくる者もいた。

   そのうち私は、自慢しすぎて不安になってきた。話題になるくらいだから、うちの新築費用が高いのは確かなようだ。しかし、両親にそこまで経済力があるとも思えない。新居を一括で購入したために、我が家は一文なしになったのではないか。だとすると、自慢したクラスメイトたちに合わせる顔がない。

   1度、考え始めると、不安で夜も眠れなくなった。両親が私を気遣って言わないだけで、本当はお金がなく、明日の食事にも事欠くような状態かもしれない。借金地獄に陥っている可能性だってある。考え詰めたあげく、ついにある日、勇気を振り絞って母親に聞いてみた。

「うちって、家を建てたから、お金がなくなったの?」

母はきょとんとした顔をしている。8歳の娘が金銭的な不安で追い詰められているなんて、まるで信じられないという感じだ。

「大丈夫だよ、貯金しておいたお金で払ったから、一時的にお金はなくなったけど、また貯めればいいんだから、安心しなさい」

な~んだ......大丈夫なのか。母が予想に反して、ニコニコと答えてくれたので、私は心から安堵した。その後は再び、新築費用をクラスメイトに自慢する日々に戻ったのだが、次第に話題にもならなくなったので、自慢するのがバカらしくなって、やめた。

   今でも母は、当時の私がものすごく不安そうに「うちにはお金がない」とブツブツ言っていたのを覚えているという。恥ずかしいことほど、忘れてくれないらしい。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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