打席に立て! 思い切りバットを振れ!! それが「6割主義」の神髄(江上剛)

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   入社2年目。中小の部品メーカーに勤めています。先輩に「仕事というのは、計画段階で6割正しいと判断できたら、あとは走りながら考えて決めていけばいい」と、いつも言われます。ただ、本当にそれでいいのか、と自分自身は納得できていません。「走りながら」というと、現場で判断してブレたらその都度修正するということですよね。でも、進み始めたら、もう後戻りできないのではないでしょうか。それでは当初の目的、目標と違った結果が出てきませんか? そう考えると、自信がありません。

   あなたは先輩の話を少し誤解して理解していませんか?

  • バッターボックスに入ることをためらうな!
    バッターボックスに入ることをためらうな!

一歩前に踏み出すことの「価値」

   私も若手銀行員の時代に、先輩から同じようなことを言われました。私の理解(私が誤解していたらすみません)は、「6割主義」というものです。

   「6割主義」は、どんなことでも完璧に準備してから実行しようとしたら、まったく前に進むことができない、だから6割でいいから、とにかくやってみることだ、ということです。

   確かにあなたが懸念するようにミスがあるかもしれないし、現場で判断して修正していかねばならないかもしれません。それは当初と違う結果を生むかもしれません。それは結果オーライになるかもしれませんが、大失敗なんてこともあるかもしれない。

   しかし、それでも完璧に準備を整えて、その場に立ち止まり、じっとしているより、一歩前に踏み出すことのほうが、価値が高いということです。

   いい先輩じゃないですか。

   彼はあなたの才能は認めているものの、非常に慎重な性格で、失敗を恐れるあまり完璧主義に陥っている状況を察知して、それをなんとか打破してもらいたくて「6割主義」をアドバイスしたのだと思います。

   私は、子どもの頃、高い石垣から仲間たちと地面に向かって飛び降りる遊びをしていました。崖の上に立って下を見ると、足がすくむほど高い(実際は2メートルくらい)。飛び降りて、足をくじいたらどうしようか、けがをしたらどうしようかなどと考えてなかなか飛び降りることができません。

   躊躇している私をしり目に友達は、どんどん飛び降りていきます。

「おーい、早く飛べよ。下はふかふかだぞ」

   地面には緑のクローバーなど丈の短い草が生い茂っています。

   私は、友達の声に押され、思い切って石垣を蹴りました。からだが浮き、あっという間に地面に着地しました。地面の草がクッションになって柔らかく着地をしました。それよりも宙をふわりと浮いた感じがとても心地よい記憶として残りました。

「やったね」。友達の祝福を受け、私はとても誇らしい気分になり、自分が勇者になったようでした。

完璧主義はタイミングを逸する

   「6割主義」を考えていたら、子供の頃のことを思い出してしまいました。この石垣飛びの遊びで、なんとなく「6割主義」の効用がわかるでしょうか。

   完璧主義はタイミングを失してしまうことがあるのです。なんでも完璧にやろうとしていると、次から次へと心配なことが現れて、何もできません。

   もちろん、完璧に準備しなければ実行してはいけないことはいっぱいあります。たとえば宇宙ロケット発射などはそうでしょうね。少しでも見落としがあれば、宇宙飛行士の命にかかわりますから。

   しかしあなたが関わり合っている仕事は、きっと先輩の考えでは「6割主義」のほうがいいんでしょうね。

   これも参考になる考え方だと思いますが、どんな優秀なバッターでも「3割」しか打てないんですよ。

   彼らは10割を打つという気持ちでバッターボックスに立つとは思います。しかし「7割」は失敗。「3割」しか打てないんです。それでも、これが最高のバッターなのです。

   もし、彼が10割を打てないからといって、バッターボックスに入るのを躊躇していたら、監督は「なにやっているんだ! さっさと打て! アウトになっても構わないから。思い切ってバットを振るんだ!」と、大声で彼を叱咤激励するでしょう。

   これが「6割主義」の神髄です。答えになりましたか? (江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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