2024年 4月 20日 (土)

「今できる仕事をしっかりやる」 その先の夢の実現を信じる(江上剛)

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   32歳、商社に勤めています。自分の好きなことを仕事にするというのは、夢を追いかけるようなもの、また自分の技術や才能でその夢を実現できる人はごく少数であると考え、就職しました。しかし、仕事に慣れて、ややマンネリぎみだからでしょうか。最近、学生時代に仲間とライブハウスなどで演奏していたことを頻繁に思い出すようになり、夢を追いたくなったのです。「これで稼げる」という自信があるわけではあありませんが、一生やっていく仕事として、商社マンと音楽を比べている自分がいます。こんなわたしはおかしいでしょうか。

   仕事に慣れてきてマンネリになったとき、あなたのような思いに捉われがちです。

  • ステージに立つ夢がある
    ステージに立つ夢がある
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井伏鱒二先生は「銀行で修業を積め」と言った

   私の例で恐縮ですが、作家になりたいとは一度も思っていませんでした。

   しかし、井伏鱒二先生と出会い、同人誌の発行など、学生時代から作家への道を歩んでいたことには違いありません。

   井伏先生からは、就職に際して「小説はいつでも書けるから、銀行で商売の修行を積んできなさい」と言われました。

   才能はなかったのでしょうね。それに作家として食えるのは、ごく少数ですから、きちんとした生活を営んでほしかったのかもしれません。

   それでも運命は、私を作家にしてしまいました。

   49歳で銀行という職場に限界を覚え、退職を決意しました。その時、作家として自立できるなどとは、夢にも思っていませんでした。

   ところが、人生おもしろいものです。なんの賞も取っていない私に、小説の注文が来たのです。処女作「非情銀行」(講談社文庫)が評判を得たからです。

   私は注文をこなすために必死で小説を書きました。それで今日までなんとか、作家として暮らしているんです。これから先も続くかどうかはわかりませんから、毎日、不安でいっぱいです。

   私は、銀行員として「十分に働いた」という思いで辞めました。これ以上、銀行にいても、おもしろいことはないだろうとも思いました。

   あなたも、商社マンとして「十分に働いた」と思わないといけません。そうでないと過去に髪の毛を引っ張られます。辞めなければよかった、あのまま会社に残っていたら部長だ、役員だ、だって俺より評価の低かったあいつが役員になったのだから、クソっ、おもしろくない......

   過去に髪の毛を引っ張られて、辞めたことを後悔することになるのです。

   あなたには「十分に働いた」という気持ち、過去を振り返らない気持ちが必要です。そして、「食えるかどうか」などと迷っていては、好きなことはできません。まず飛び出さないといけません。

商社マンと音楽の「二重生活」という道もある

   とはいえ、そうは言うものの、「言うは易し行うは難し」ですよね。当面、商社マンと二重生活をしたらどうでしょうか。

   あなたがどんな音楽を目指しておられるのかわかりませんが、仕事をしながら音楽をつくるのは、多くのサラリーマンから共感を得られるのではないでしょうか。

   二重生活なんかできないって? そうですか......。

   ただ、フリーランスで食べていくのは、なかなか大変です。しかし、やれないと思ったら、いつまでも後悔が続きます。後悔しないため、思い切って辞めますか? 何とかなるものですよ(ならない場合がないとは断言できませんが)。

   「徳は弧ならず、必ず隣有り」という、孔子の言葉あります。信念をもっていれば、正しいことをしていれば、必ず助ける人がいると解釈しています。

   あなたも同じでしょう。一緒に音楽に親しんだ仲間に声をかけて、一緒に荒海に飛び出してみるのもいいでしょうね。

   でもその時、これは私の場合、結果論ではありますが、何が「売り」になるかです。あなたの特徴ですね。

   私の場合、銀行で26年勤務して、それなりの立場を経験。多くの問題に遭遇し、それを命懸けて解決したことを、多くの人が知ってくださっていたことなどがありました。作家以外の面でも評価してくださる人が多く、講演やテレビコメンティターなどの仕事の依頼も受けるようになりました。

   あくまで本業は作家ですが、こうした作家に付随する仕事も、大いに私の助けになっています。こうした仕事も私は喜んで引き受け、一生懸命にやっています。

   これは皆、私が井伏先生の言葉「小説はいつでも書ける」のとおり、じっくりと銀行勤務をしたおかげです。

   今は、小説を書くのは苦しいこともありますが、楽しいです。こんなに小説を書くのが好きだったのかと自分でも驚いています。

   あなたも音楽が好きなら、きっと運命がその道に導いてくれますよ。焦らず、今の仕事を「十分」にやり切ることを考えられたらどうでしょうか?

   思いは叶いますから。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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