2024年 4月 26日 (金)

辞めるべきか残るべきか、60歳前の「介護離職」という選択(江上剛)

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   食品メーカーに勤務する55歳です。転勤(とはいえ、首都圏の通える範囲ではあるのですが)の打診があり、それを機に退職を考えています。定年まであと5年。65歳まで勤めるにしても給料は減りますし、母の介護もあり、これまでのような仕事と介護の両立ができないと考えたからです。60歳で転職するよりは、5年でも早いほうがいいと思っているのですが、探してみると給与面などで折り合いません。迷いがあるうちは、辞めないほうがいいのでしょうか。

   お話をうかがっていると、独身の方のようですね。お母様の介護を一人で担っておられるようですから。大変ですね。同情します。

  • 介護離職は熟慮を重ねて!
    介護離職は熟慮を重ねて!
  • 介護離職は熟慮を重ねて!

65歳、会社に残っても給料がガクンと下がる

   確かに60歳になれば、ほぼ再就職は難しくなります。

   政府は、元気な老人には長く働いてもらおうと年金支給年齢を75歳まで引き上げようというアイデアを持っているようですが、働く場所をちゃんと確保してくれなければ、死ぬまで年金をもらえないってことになりかねません。

   現在でも多くの企業で65歳定年制が採用され、年金支給年齢と合わせるようにはなっていますが、実質的にはあなたの会社と同じで60歳定年です。あとは65歳まで雑用で、低賃金で雇用してあげるというものです。なかには、仕事は現役時代と同じというケースもあるようですが......

   私の友人は65歳に近くなっていますが、現役時代とたいして仕事が変わらないのに給料だけが、ガクンと下がったと怒っています。

   不満があっても、その職場にとどまっているのは、やはり自分に合った仕事がないからです。

   なぜ仕事がないのか。もちろん会社側が若い人を欲しがることもありますが、年齢が上がると柔軟性がなくなるからです。なんでもいいからやりますよってな具合にはならないでしょう。

   今さら、管理職だった人は慣れないパソコンで書類を作れないし、ましてや工事現場で警備のために一日中立ち仕事もできないでしょうね。どうしてもやらざる得ないということならできるかもしれませんが、それなら今の仕事をガマンして続けるほうがいいということになるんです。

介護離職は社会問題、詳しい人に聞いてみることも

   あなたの場合、お母様の介護が生活の主になっているようですね。今の仕事も、ある意味、介護のためにやっておられるようにお察ししました。

   政府は介護離職ゼロという目標を掲げています。それは介護離職によって不幸になる人があまりにも多いからです。介護には終わりは見えません。まさか何年後に確実にお母様の介護が終わるなどということは分かりませんからね。

   介護離職した人が、徐々に蓄えを減らし、結果として貧困に陥り、介護される人もする人も共倒れになり、自殺や衰弱死に至るという現実があります。もし、介護離職するにしても相当しっかりした財政計画を立案してからにするべきだと思います。

   あなたがお考えになっている転職も、広義の介護離職に当たるのではないでしょうか。

   今の会社を辞めて、転職しようとしたが、なかなか適当な会社が見つからないということになれば、離職したことになります。たとえ転職先が見つかったとしても、今までの慣れた会社と違ってなにかとストレスが募るのではないでしょうか。そうなると居づらくなって、また離職することにもなりかねません。

   お母様の介護を、介護付き老人ホームに任せるか、介護保険による各種の公的支援を受けるかなどして、あなたの介護の負担を大幅に改善しないのであれば、転職はするべきではない、と思います。

   幸い、転勤先も通える場所であるようです。もし可能なら思い切って、会社に介護の事情を説明し、転勤を再考してもらうことができないのでしょうか。

   また、あなたのように介護で深刻な事態に陥ったことがある人は少なくないはずです。会社内のほか、地域やご友人などで同じような境遇にある方や介護に詳しい人に、ぜひご相談されるべきでしょう。

   私に言えることは一つだけ。お母様の介護を主に考えた生活をする場合には、介護によるあなたとお母様の共倒れだけは防ぐようにしてください、ということです。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中