2024年 4月 24日 (水)

ああ、この耐え難い「痛勤」ラッシュ 企業は社員に「時給2000円」払え!(北条かや) 

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   この1週間、仕事で通勤ラッシュを体験している。疲れた身体で満員電車に押し込まれるのは、苦痛でしかない。

   そういえば会社員だった25歳のときも、通勤がイヤで仕方なかった。自分で選んだわけでもない見知らぬ土地の社員寮から15分も歩き、ヒールのかかとをすり減らして、ようやっと駅についたと思ったら、満員電車に背中から押し込まれる。会社の最寄り駅についたら、雨が降ろうが槍が降ろうが、歩みを止めてはいけない。

  • 社長! もう耐えられませんよ!!
    社長! もう耐えられませんよ!!
  • 社長! もう耐えられませんよ!!

平均通勤時間 東京は1時間45分、大阪は1時間27分

   25歳の私は、この「痛勤」に時給が2000円も出れば、まだ耐えられるかな~と、ろくでもないことを考えていた。正直に言うと、今でも考えは変わっていない。企業は、社員が「痛勤」に耐える時間をもっときちんと評価すべきなのだ!

   NHK放送文化研究所が5年ごとに実施している「国民生活時間調査」によると、東京エリアで働く人の平均通勤時間は、じつに「1時間45分」、大阪では「1時間27分」にもなる。東京圏で仕事をしている人は、通勤に時間を取られるからか、睡眠時間もいちばん短い。

   「痛勤」は、ビジネスマンにとって大きな負担だ。私の知人も、「満員電車ではひたすらスマホに集中し、他人との接触を不快に思わぬよう皮膚感覚を『無』にする」と言っていた。

   朝はボンヤリしたやや暗い頭で、目的地へと(一応は主体性をもって)護送される無常。帰宅時はそれに輪をかけてヒドい。

   まず、1日の労働で疲れきった脳内は、ほとんど生産的な思考ができなくなっている。

   「ああ、今日も○○先輩を怒らせたなあ」とか、「お腹すいた......」「座れるかな、いや無理だろうな」など、たいして深刻でもないが建設的でもない、まったくぼんやりした頭で、電車に足を踏み入れる。

   ああ、やっぱり座れないな~と「ドア横」をキープしようとするも、リュックを抱えた中年男性に押しやられ、新たなポジションをうつろな目で探す。

   あとからあとから、帰宅ラッシュの会社員や学生たちが、疲れた顔で乗り込んでくる。

   「順に奥へとお詰め下さい」――。いつもの事務的なアナウンスにうながされ、人々は最低限の配慮をもって肌を寄せ合う。ああ、気持ちが悪い。ノートパソコンや各種資料が詰め込まれてパンパンのビジネスバッグを持った男性と肩がぶつかる。

   互いに「あんたは不快だ」と言いたくなるが、公共空間のルールが喧騒とともに怒りをおさえつける。そもそも、この電車内のどこにも「あなたが歓迎される要素」はないのである。

「痛勤」に耐えるガマン強さこそ、会社が求める「能力」ではないか

   他人に「人肌として迷惑をかけない」ことによってのみ、「痛勤者」は、すし詰めの一員になれる。自分の存在を、下手すりゃ貶めかねない空間にギュウギュウと押し込まれ、数十分も耐える苦行が、毎朝晩と繰り返されるわけだ。

   この苦しみに耐えるガマン強さこそ、会社が要求している「能力」のひとつではないか。

   通勤のあいだ、ビジネスマンたちは、忍耐力や「心を無にする力」、満員の車内でも迷惑をかけない手足の具体的な動かし方やイライラの鎮め方など、多くの能力を発揮している。にもかかわらず、交通費の実費しか貰えないなんて、あまりにも理不尽ではないか!

   「痛勤」の苦痛に耐える能力は、それだけで評価されるに値するほど素晴らしい能力だ。私など、そこに耐性がないために「会社員」という枠組みから脱落してしまったと、今でも悔やんでいる。あの能力さえあれば、人生はもうちょっと上手くいっているはず......

   だからこそ、私は本気で主張したい。「痛勤手当」さえあれば、世のサラリーマンの苦労が、少しは報われるのではないかと!!

   せめて、時給2000円くらいは会社が支払ってほしいものである。こんなに素晴らしい能力をタダで使おうなんて、ちょっと虫がよすぎるんじゃあないだろうか。

   皆さんはどう思いますか?(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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