2024年 4月 24日 (水)

「はれの日」社長よ、よく聞け! 成人の日を花束でお祝いするトップの思い(大関暁夫)

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   2018年の成人式をめぐっては、「はれの日」という会社が経営難の挙句に成人式当日にいきなり社長が雲隠れ。前払いでレンタル衣装を予約していた新成人たちが晴れ着を着られないという前代未聞の事態がありました。

   「はれの日」の社長は2018年1月26日、公の場にようやく現れました。記者会見を開き、謝罪。しかし、この人が最悪の企業経営者であることに変わりありません。企業経営をお手伝いする立場からも、本当に腹立たしく、後味の悪い許せない事件です。

  • 成人の日は「第二の誕生日」
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成人の日は「第二の誕生日」

   そんなイヤな気分のなか、成人の日の直後に訪問した旧知の経営者T社長から、好対照な心温まる話を聞かせてもらいました。

   T社長の会社は、従業員約200人で十数店舗を回す小売店チェーンです。社員は若い女性が多く、毎年10人弱が成人式を迎えていると言います。そして、成人式を迎える社員にT社長は毎年、自宅に花束を届け、会社で本人に直接お祝い金を渡して記念撮影もプレゼントしているのだと聞き、少しビックリしました。

   「成人式は、子供たちが無事育って一人前の大人として世に出る、言ってみれば『第二の誕生日』です。こんな大切な記念日を、うちの社員として迎えてくれる子たちには、経営者として親御さんへの感謝の意も込めて心からお祝いしてあげたいのです。花束とお祝いと写真撮影は、お子さんを預かる経営者としてわずかながらの感謝とお祝いの気持ちです。毎年、みんなすごく喜んでくれます。なかなかいい試みではないかと思っています」

   先の「はれの日」の社長に聞かせてあげたい一言です。じつはT社長の会社は、近隣の多くの小売業や飲食業が人手不足に悩む中で、現場は若い社員中心体制でありながら定着率が非常に高いのです。

   また、結婚や出産で一度退職しても、家庭が落ち着くとまた職場復帰してくれる元社員が多いなどの事情もあって、人手不足や採用難とは無縁とは言わないものの、他社に比べれば状況はかなりいいと聞いています。

   T社長は一代で今の会社を作り上げた、強面でならす超ワンマン経営者です。これまで私も何度となく部下を怒鳴って指導する姿を見てきましたし、それはまた、一見するとパワハラ経営者ではないのかと思われても仕方のないような物言いだったりもしました。

   それでも近隣他社とは比較にならない定着率の高さはどこからくるのかと不思議に思っていたのですが、この成人式の話にはなるほどとうなずける、経営者として社員と向き合う、ひと味違う姿勢を垣間見たような気がしました。

クボタ木股社長の悩みが「コレ!」で解消した

   時を同じくして、新聞で似たような話を扱った記事を目にしました。「会社は赤の他人の集まり。経営者になれば、それだけで社員は自然に従うと思うのは大間違い」という、長年京セラの稲盛和夫名誉会長の秘書として仕えた大田嘉仁氏の話です。

   この言葉は稲盛氏の社員との接し方を見ていて会得した、経営の真理であると大田氏は話しています。

   言いたいことは、経営者と社員の関係は経営者が思っているほど自然発生的かつ絶対的な主従関係はなく、むしろ常に危ういものであるとの理解が必要だということなのです。

   すなわち、ビジネスライクな上下関係、主従関係だけでなく、人としての人間関係こそ大切なのであり、真の信頼関係は自ら築き上げるものなのだというわけなのです。

   この記事では、同じ心がけの具体例として、産業機械製造大手のクボタの木股昌俊社長の話も取り上げられていました。それは、同社では全社員1万1000人の自宅に、毎年社長からのバースデーカードが届くというのです。カードには、社長の顔写真と共に、「安全と健康をなにより大切にお過ごしください」と書かれていると言います。

   さらにそのカードには、部課長の手書きメッセージか添えられているのだそうです。クボタほどの大企業では、社長が全員の顔を知っているわけではないので、社長が面識のない部下にはその上司が社長に代わって、社長の顔写真とメッセージの下に心を込めた直筆メッセージを贈っている、そんな仕組みになっているようです。

記念日の共有が信頼関係づくりに役立つ

   木股社長は課長時代、現場での事故やケガの多さに悩み、試しにと部下の誕生日にお祝いの言葉と共に「ケガをするなよ」というメッセージを送ったところ、劇的に事故やケガが減ったと言います。

   社長は異動で赴任する先々で、これを続けることで部下との信頼関係構築を実感し、トップに立った今もこれを続けていると言うことなのです。

   先のT社長の話は、まったく同じだと思いました。仮に社員が会社と自分、あるいは社長と自分の間に雇用関係以上のものを望んでいなかったとしても、経営や管理の側から積極的にある意味で「家族」として意識しているというメッセージを送ることで、社員のサイドからもそれまでとは異なる信頼関係が構築されるようです。

   その結果として、日々の業務に対する意識の変革や定着率の向上などに、大きな影響が出るものなのかもしれません。

   私は大学時代に音楽系サークルに籍を置いていましたが、そのサークルは数ある他のどの音楽系サークルよりも揉め事が少なく、辞める部員も少なかったのです。今思えば、その秘訣はサークルで毎月誕生会を開催して、部員の誕生日をお祝いするという風習にあったように思えます。

   どうやら、どんな形であれ記念日を共有し祝福することが、組織における信頼関係づくりに役に立つことは間違いなさそうです。ご参考まで。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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