2018年 12月 19日 (水)

コインチェック社長の誤算 そもそも起業のための3つの「やる」はありましたか?(大関暁夫)

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   仮想通貨取引所の運営会社「コインチェック」から、顧客の預かり資産とみられる仮想通貨「NEM」約580億円相当が不正に引き出されという事件が発生。同社の運営管理をめぐって金融庁が業務改善命令を出すなど、大きな問題となっています。

   現在のところ、まだ詳細は明らかになってはいませんが、顧客から預かった資産を十分なセキュリティ対策を講じることなく取り扱い、今回の事件に至ったとは多くのメディアや専門家が指摘するところ。さらに言えば、コスト負担を嫌って、顧客保護をないがしろにして自社の利益追求に走った結果、このような利用者を巻き込んだ大きな事件を自ら呼び込んだある種の人災であった、とさえ言える状況のようです。

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「やりたいこと」であれば苦難に耐えられる

   コインチェックの社長は技術系出身の27歳。いわゆる新進気鋭の若手起業家です。伝えられる経歴によれば、理工系超一流大学在学中に起業し大学を中退したとのこと。そこまでしてやりたかった事業が、上記のような利用者をないがしろにしたカネ儲け商売だったのかと思うと、非常に悲しい気分にさせられます。

   私のところには、起業家向けのセミナー受講者をはじめ毎年何人もの起業希望者が、脱サラ、独立、新規事業化などの相談にやってきます。具体的な事業計画を手に訪れる人もあれば、まったくのアイデアレベルで来られる方も。さらには、いずれ独立をしたいのだけれどうまくいく起業のポイントや、事業領域を広げたいのだけれど新規事業の成功の秘訣を教えて欲しい、などという相談もあります。

   そんな意欲旺盛な皆さんに会うと、私が必ずする話があります。 「自分がこれからやろうとしている事業を、次の3つの観点から見て合致しているか確認してみてください」というものです。

   その3つが、以下です。

(1)これからやろうとしていることが、自分の「やりたいこと」であるか。
(2)これからやろうとしていることが、自分が「やれること」であるか。
(3)これからやろうとしていることが、自分が「やるべきこと」であるか。

   「やりたいこと」であることの重要性は、事業が壁にぶち当たった時に、乗り越えていくだけの精神力があるか否かを判断する材料です。

   この点の重要性は、アナタが経営者としてやっていく以上、何かあった時には社員や出資者や利用者や最終的にはご家族に多大なる迷惑がかかるわけで、それを全力で回避するためには苦難を乗り越える精神力が必要になるから。「やりたいこと」なら多少の苦難は耐えることができても、「やりたいこと」でないと「もういいか」となりやすく、容易に心が折れて失敗に終わりやすいのです。

一等地のラーメン屋が1年半で閉店したワケ?

   「やれること」の重要性は、背伸びをしていないか、ということです。

   必ずしも自分一人ではできないことでも、信頼に足る仲間の力を借りることで十分に「やれること」と判断できるならOKです。一番怖いのは、信頼関係に乏しい人の力を借りて失敗するケースです。

   都心の一等地でラーメン屋を始めたSさん。元々人材派遣会社の役員でした。突然畑違いの起業を試みたいきさつは、飲食店経営を手がけたかったこと、たまたま友人のツテで有名ラーメン店の店長が新たな職場を探している話があったこと、ちょうど出物の物件があったこと、でした。

   出足は絶順調でしたが、わずか1年半で閉店の憂き目に。理由は、報酬の件でもめた店長が1年で辞め、後任店長の腕がイマイチで客足が激減したことでした。Sさんには「やりたいこと」ではあったものの、「やれること」ではなかったのです。

コンプライアンスは単なる法令遵守だけではない!

   3つ目の「やるべきこと」であるか否かについては、「どのように考えたらいいですか」という質問をよく受けます。

   狭義には、「求められる製品、サービスであること」すなわち「ニーズがあること」で、強豪が多く持久戦になるようなものはダメ。すなわち、自分が想定しているマーケットで独自性をもってニーズを引き寄せられるか否かということです。

   広義には、より重要な観点が含まれます。「やるべきこと」すなわち「やっていいこと」か否か、という観点です。端的にはコンプライアンス的に問題はないですね、という確認です。

   この場合のコンプライアンスとは単なる法令遵守ではなく、モラル的に見て問題がないかという視点が必要です。さらに深く申し上げれば、「その事業に社会的意義がありますか」ということ。公序良俗に反するもの、単なるカネ儲け目的の事業はこの段階で「NO」が出るのです。

   冒頭のコインチェック社は報道内容が事実なら、利用者の利益保護をないがしろにして自社の利益を優先した、つまりコンプライアンス的にみて大いに問題ありであり、私の判断基準では「やるべき」事業ではないと言えます。

   事業を起こすとは、そんなに安易なものではありません。金儲けに走った挙句、他人に迷惑をかけて終わってしまう、そんな起業やビジネスが後を絶たない世の中ですが、基本はすべて上記の3点チェックに集約されるのです。

   起業や新たなビジネスを思い立った人が周囲にいたら、ぜひ教えてあげて頂きたく思います。起業のとばっちりで、人生を狂わせられる方が一人でも減ることを祈っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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