2018年 5月 25日 (金)

ダメ会社の経営理念は「画餅」だ! そうしないために社長が打つ手は?(大関暁夫)

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   テレビの通販番組でおなじみ、ジャパネットたかたの創業者である高田明氏が現在、日本経済新聞の「私の履歴書」欄を執筆しています。

   この欄に著名なオーナー経営者が登場する際には大変興味深い話が聞かれるのが常なのですが、今回も同社が2004年に起こした顧客情報漏えい事件から信用回復を図るくだりは、じつに興味深く読ませてもらいました。

  • 社員は「経営理念」を理解していますか?
    社員は「経営理念」を理解していますか?

ジャパネットたかたの創業者、高田明氏に学ぶ

   この情報漏えい事件は、社員による故意の顧客リスト持ち出しだったのですが、高田社長(当時)は経営者としての管理責任を痛感し、当面の通販番組の放映取りやめを決めます。

   当然、業績は急下降。番組再開に際して高田社長は、事件の反省から創業の精神に立ち返るべきとの考えから経営理念を社員と改めて共有する必要性を感じ、クレド(企業のもつ行動規範や価値観、経営理念)制定を通じて、改めて徹底を図ったと言います。

   経営理念とは、何のためにつくられた会社なのか、お客様に何をすることでそれを実現するのか、それを言葉にして表したものが経営理念です、組織の気の緩みは、惰性の中でこそ起こるもの。高田社長はジャパネットたかたの事件もまた、組織の気の緩み、経営者の気の緩みが社員にスキを与え起きたものであると考えたのでしょう。

   下降線をたどった同社の業績は、これを機にV字回復することができ、高田社長の対応は「危機管理のお手本」として高く評価されたのです。

   ベンチャー企業などの比較的若い経営者の会社では、経営理念というものが制定されていないケースも間々見受けられるのですが、私はどんな小さな企業であっても、経営理念はその会社の企業活動の社会的意義を社員やお客様に対して表明するものとして、必要不可欠であると考えます。

   理念の下に明確なビジョンがあり、そのビジョンの実現を目指し戦略が立てられることこそ、健全な企業経営であるといえるからです。

   中期的な目指す姿であるビジョンやそのビジョン実現に向けた戦略は、比較的具体性に富んで社内にも浸透がしやすいというのが一般的です。その一方、肝心要の経営理念に関しては、ややもすると抽象的な存在として受け取られる嫌いがあり、対社内ではお題目的に惰性に任せて唱えられるだけであったり、あるいは壁に貼り出されていても素通りされる存在であったり、というケースも決して少なくないと思われます。

経営理念を「精神論」で終わらせない

   前回も登場した地方で携帯電話の1次代理店を10数店舗経営するT社。創業から十数年が経った今から5年ほど前に、契約社員を含めたスタッフが100人を超え、これを機に店舗ごとに分かれているスタッフに一体感を持たせようと経営理念を制定しました。

   それは、同社M社長の創業来の信条を言葉にした「通信ビジネスを通じて、地域の皆様の生活に利便性と潤いを提供しつつ発展する」というものでした。

   本社はもとより、各店舗の店頭およびバックヤードにもこの理念を掲げ、毎朝朝礼で唱和もさせました。ところが半年が経ち1年が過ぎても、「どうも理念が社内に浸透している実感がない。若いスタッフが多い当社に経営理念という考え方自体が向かないのではないだろうか」と、社長が落胆ぎみに相談を持ちかけてきました。

   そこで私は社長に尋ねました――。

「社長はこの経営理念の実現のために、社員一人ひとりが、日々どのように行動することが必要だと考えていますか」

   社長は間髪入れずに答えました。

「『お客さまのご要望をしっかり聞くこと』『お役に立ちたいという気持ちで仕事をすること』『ウソをつかないこと』」。

   私はこう続けました。

「ならば社員にそれを伝えてください。理念そのものは精神論と受け取られがちです。その実現に向けては、日々何を心がけ、何をするべきなのか、具体的な行動指針を見せてあげなくては、経営者の思いは社員に伝わりません。社長が今自信を持って話された3つのことを繰り返し刷り込み社員がそれを行動に移してくれるなら、自然と経営理念は理解され、さらには社員の行動を通じてお客様にも自社の経営姿勢が伝わると思います」

社長の考えを「見える化」して「共有」する

   経営理念は経営の考え、すなわち社長の基本的な考えを見える化し、共有するために必要不可欠な要素です。

   しかしながら、そのものだけではなかなか具体性を持って中身が伝わりにくいのも事実なのです。経営理念を浸透させしっかりと根付かせるためには、具体的に何をしたらよいのかという、行動指針と呼べるようなものの提示が手助けになります。

   T社はその後順調に成長し、今では200人を超えた社員たちが経営理念の下、一丸となって業務に邁進しています。

   経営理念は事業を立ちがた時の創業者の思いを、常に備忘録のように記すためにあると思われがちなのですが、じつは企業が不祥事や業績不振や組織内の不協和音にさいなまれた時に、皆が向かうべき方向を再確認するために羅針盤的な役割も果たしてくれるのです。ジャパネットたかたやT社のエピソードはそのことを如実に伝えてくれる好例であると思います。

   高田氏は「不易流行」という言葉を引き合いに、企業経営に対する自身の考え方を連載の中で記しています。「不易」とは変えてはならない基本的な姿勢を堅持することであり、「流行」とは世の中の変化に柔軟に対応することです。

   他の多くの成功を収めた経営者たちも、好んで座右の銘にするこの言葉。経営理念は「不易」を象徴する部分として、改めてその大切さを認識させられるところです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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