2018年 11月 16日 (金)

「許せん!」と沸騰する前に...... 経営者たるもの、宣戦布告はダメでしょ(大関暁夫)

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   私が主宰している企業交流フォーラムのメンバーTさんから突然、「聞いて欲しい話がある」と連絡があり会うことにしました。

   40代前半のTさんは、この春に10年以上勤めた中堅広告代理店から独立。現在はほぼ自分一人で運営する、同業の会社を立ち上げました。そんなTさんが私に聞いて欲しい話というのは、取引先との支払いトラブルの話でした。

  • 怒り爆発!
    怒り爆発!

「申し訳ない」のひと言もなく、カチン!

   「知り合いの紹介で、中小メーカーさんの展示会ブースの制作の仕事を受けて、予定どおり納品したのですが、当初、先方の担当者から言われていた先月末日に、代金が振り込まれませんでした。確認すると『直接社長に連絡してください』と。
   ところが、その社長の対応がひどくて、2か月後に払うからいちいち電話をしてくるな、とお詫びの言葉もなく、高圧的で一方的でアタマにきました。
   創業して間もないウチにとってはそれなりの金額で、下請けへの支払いやらなんやら資金計画が大狂い。起業早々とんでもない状況になってしまいました」

   紹介者を介して先方の業況を確認すると、どうやら大口先からの定例仕事が突然失注するなどあって、資金繰りに苦労している様子であると。Tさんとしては、自社の状況を説明して支払い遅延の協力を要請されるなら、2か月の支払い延期も協力できない話ではないものの、「申し訳ない」のひと言もなく一方的に90日の支払いサイトで文句あるか的な物言いには、どう考えても納得がいかないのだと言うわけです。

   私が気になったのは、担当者が先月末に支払うと約束していたことを社長は果たして知っていたのかと言う点です。

   社長からお詫びの言葉もなかったという点が、どうにも引っかかりました。もちろん社長が知らなかったからといって、社員がした支払い約束を反故にしていいわけではありませんが、まずはその点の確認があってはじめてまともな支払い交渉が成り立つのではないかと思ったのです。

   社員が先月末に支払うと約束したと知れば社長は対応を変えるかもしれませんし、少なくともお詫びの一言は出るのではないかと。

ああいう経営者は痛い目にあわせないと......

   しかし、Tさんは強硬です。

「こんな対応をされて、ウチだって立ち上げ早々つぶされかねません。流れによっては訴訟も考えて、今、必要資料を揃えています。以前の勤務先に話して展示会ブラックリストに載せてもらい、すべての展示会から締め出してやろうかとも思います。信用調査会社の知り合いに話をして、過去に契約不履行があるという情報を載せてもらうことだってできます。ああいう経営者は痛い目にあわせないと、他にも被害者が出かねませんから」

   確かに起業直後の資金繰りに大きな影響の出る支払いトラブルで、Tさんが尋常ならざる精神状況にあるのはよくわかります。しかし、彼の口をついて出てくる話は相手への報復措置一辺倒で、これにはどうしたものかとこちらも反応に困ってしまいます。

   「とにかく、社長の一方的で高圧的な対応が最悪です」とTさんは繰り返し言うのですが、社長の真意はわかりません。

   担当者が自分勝手に先月末支払いを約束したことを、社長から咎められないために、社長に「うるさい客から、『なんで支払いが遅いのだ』としつこく言われて困っている」と言い、それが社長の高圧的な受け答えになったのかもしれません。

   「とにかく今は報復措置ばかりを考えるのではなく、まずはTさんと担当者のやりとりについて正しい事実関係を社長に話すべきです。それではじめて社長がどこまで事実を把握しているのかがわかり、取引相手の責任者としてこれにどう答えるのか、すべてはそこからだと思います。
   仮に、相手の社長が本当にどうしょうもない経営者だったとしても、報復措置などいくらしたところで、何の得もなく経営として時間のムダだと思います。Tさんも、今は従業員がいなくとも、起業して一人の経営者になったのですから、自分が働くことの役割やコストを考えて、経営者として「今、何をするべきか」慎重な対処を検討すべきです」

「報復措置」でわかる! 起業に向くか否かの分かれ道

   Tさんは黙っていましたが、私が彼の報復案に同調してくれると思っていたのか、意外な表情と言うより、明らかに不満そうな顔を浮かべ、納得がいかない様子がありありとうかがわれました。

   私は、これ以上この話をしても説教がましくなるだけで意味がないと思ったので、ここで話を終わりにしました。果たして彼は、私の話を聞いてどう対応するのでしょうか。

   目には目を、歯に歯を、自分が被害を被ったなら仕返しをしたくなる、そんなバイタリティ溢れる性格ゆえTさんは独立起業したのでしょう。

   しかし、仮に自分が被害を被ったとしても、なぜそうなったのかを考えずに短絡的に「やられたからやり返す」のは、経営者としては決してほめられた行動ではないでしょう。経営者として、まずやるべきは、自分が受けた仕打ちは相手が事実関係を十分に理解したうえでの行動なのか、また相手の状況をこちらは十分わかっているかを確認し、そこが明確でないなら、コミュニケーションを密にして相互理解を深めて善後策を考える、そんな対応が必要なのではないかと思います。

   この季節だからこそ、なおさら思うのは、どんな時でも報復措置を最優先するのは国を戦争へ導いた過去のリーダーたちの愚かな選択と同じであると思います。Tさんが、果たしてそこを理解できるか否か、彼が起業に向くか否かの分かれ道であるように思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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