2018年 11月 17日 (土)

データイノベーション時代はこう生きろ! 「自分データ」の活用でよりパワフルになれる

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   個人データ(パーソナルデータ)というと、個人情報の流出や悪用問題が騒がれて、保護の対象というイメージを持つ人が少なくない。しかし現在、個人データを大いに活用することが自分自身のキャリアアップにつながるばかりか、医療や教育の分野、AIの発展などビジネス界に一大イノベーションを起こすとして注目されている。

   私たちはパーソナルデータをどう活用して、自分のライフスタイルを改革すればよいのか。また、企業や政府はそれらのビッグデータを利用して成長につなげていくにはどういう仕組みを作っていけばよいのか。一般社団法人働き方改革コンソーシアム(CESS)が2018年6月28日、東京・日本橋で開いた「デジタルイノベーション実現会議」シンポジウムの議論を紹介する。

  • 橋田さんと今川さんのセッション
    橋田さんと今川さんのセッション

データ活用で個人はキャリアアップ、企業は成長に

   セッションのテーマは「セルフマネジメント時代のデジタルイノベーションとライフスタイル変革」。冒頭、司会の浅野雅之CESS理事がこう説明した。

「自分自身で自分のデータを管理することで、日常をパワフルに過ごせる時代がくるのです。健康管理に役立つだけでなく、セルフキャリアを積んでいくことにも利用できる。そして企業もまた成長していくのです」

   最初に登壇したのは橋田浩一・東京大学教授で、「個人データの活用と保護が今日ほど重要になった時代はありません。個人にとってはパーソナルデータの活用がキャリアアップにつながるし、企業にとっても個人データの活用が大きなビジネスチャンスになるのです」と強調した。

   その例としてあげたのが、多くの分野に広がっているAI。そもそもAIの運用には個人データが必要。なぜならAIサービスの相手のほとんどが個人だからだ。

「そのため、AIの運用と開発の両方の基盤として、個人データが不可欠です。しかし個人個人のデータを最も網羅的に収集できるのは、グーグルでもアマゾンでもなく、本人です。そして、個人データを活用するには原則として本人の同意が必要です」
「日本はまたガラパゴスになってしまう」という橋田浩一さん
「日本はまたガラパゴスになってしまう」という橋田浩一さん

   今年(2018年)5月25日、個人データの保護と活用の面で画期的な制度がスタートした。EU(欧州連合)の「一般データ保護規則」(GDPR)だ。GDPRで橋田さんが着目するのは第20条の「データポータビリティ(持ち運び可能)権」。あるサービスの利用者が自分の個人データを自由に持ち運ぶことができる権利で、事業者は本人に個人データの電子的コピーを渡さなくてはならない。違反者には最高で、世界売上高の4%か2000万ユーロ(約26億円)のうち、いずれか高い方という超巨額の制裁金が科せられる。これによって、個人はいろいろな事業者が持っている自分のデータを自由に使えるようになる。

   「EU圏内で活動する、すべての企業が対象になるので、これが世界標準になりつつあります。中国もEUと同様の技術標準を採用しました。日本も今のままではまたガラパゴスになってしまう心配があります」と橋田さんは指摘する。

   このようにパーソナルデータを自分の意思でさまざまな事業者に提供し、よりよいサービスを受け取ろうというのがこれからの動きだ。たとえば、医療の分野。診療所の場合、診療報酬の点数は外来が低くなり、在宅が高くなっている。在宅診療を増やさないと診療所はつぶれてしまうが、医師1人の診療所がほとんどで、在宅医療の条件である24時間365日の対応は不可能だ。しかし、数か所の診療所がグループをつくり、患者のデータを共有すれば在宅にも対応できる。

「患者のデータを医療機関同士が共有すれば、いい医療ができることは医療者全員が知っていました。ところがデータを共有しても儲からないのでやってこなかった。今後はデータを共有しないと医療機関がつぶれる時代になります。厚労省もデータの共有を推進しています」

個人データを提供すると自分も儲かる時代に

   もう一つ注目されているのは教育の分野だ。2020年度から大学入試の制度が変わる。受験生は出願する際、高校3年間の課外活動などのデータを大学に提出しなくてはならなくなる。大学は入試の成績と課外活動などのデータを総合的に判断して合否を決める。また、政府が推進する超スマート社会「Society5.0」を実現するためにも、多種多様かつ大量のデータを活用していく必要がある。

   小中高校・大学、さらに就職してからも各個人が学習記録などのデータを管理し、それを生涯学習やキャリア形成に役立てようという構想を文部科学省が打ち出している。

   こうなると、個人データを簡単かつ安全に管理するシステムが必要になってくる。そこで、橋田さんは自らが開発した新システム「PLR」(Personal Life Repository=個人生活録)を紹介した=図1参照

図1:個人データの集中管理と分散管理のイメージ図(総務省・2016年版情報通信白書「パーソナルデータ分散管理」から)
図1:個人データの集中管理と分散管理のイメージ図(総務省・2016年版情報通信白書「パーソナルデータ分散管理」から)

   これは、個人が本人のデータをスマートフォンなどによって管理するもので、クラウド上にデータを暗号化して保管し、必要に応じて自らの意思で特定の相手とデータを共有する。個人データを集約する仲介事業者が不要になり、情報の管理を個人に分散する仕組みだ。

「従来の集中的に管理するシステムでは、管理事業者の専用サーバーが必要になり、コストがかかる。また、管理事業者に個人データが集約されるため、その全データが漏れたり、悪用されたりする心配があります。PLRではデータが暗号化されているため、本人の同意なしに個人情報にアクセスすることが技術的に不可能だし、専用サーバーが不要なので非常に安上がりです」(橋田さん)

   情報漏えいの被害の防止とその対策にかかるコストの増大、また競合する管理事業者の間でのデータの授受が難しい問題を一石三鳥で解決する。PLRを使うと、たとえば日常の生活行動や服薬の状況をPLRアプリに記録しておき、医療機関を受診する際に医師と情報を共有して、適切な診断や治療にも利用できる=図2参照。個人データの集積と活用が自分の健康に役立つわけだ。

図2:PLRアプリによる医療機関と介護施設の連携イメージ(総務省:2016年版情報通信白書「パーソナルデータ分散管理」から)
図2:PLRアプリによる医療機関と介護施設の連携イメージ(総務省:2016年版情報通信白書「パーソナルデータ分散管理」から)

究極の働き方改革は「労働市場の流動化」にあり!

   橋田さんは「ここで働き方改革の話をします」と話題を転じた。

「究極の働き方改革とは何か。労働市場の流動化です。勤労者と勤務先を組み合わせる、つまり自分のデータから能力と時間をいろいろ組み合わせて最適の働き方を選んでいくのです。個人データの活用は、個人にとって非常に都合のよいことになるわけです」=図3参照
図3:個人データを仕事のスキルアップに活用するイメージ図(内閣官房IT総合戦略本部・データ流通環境整備検討会の中間とりまとめ案より=2017年2月)
図3:個人データを仕事のスキルアップに活用するイメージ図(内閣官房IT総合戦略本部・データ流通環境整備検討会の中間とりまとめ案より=2017年2月)

   企業にとってもメリットが大きい。企業は個人に商品を売りたい。個人は自分に適した、いい商品を買いたい。そこでさまざまな企業の商品を掲載した電子カタログをクラウド上のどこかに置いておき、それを個人が手元にダウンロードする。詳細なパーソナルデータを自分だけが使う形でマッチングすれば、精度が高い売買ができる。ところで、企業は保管している個人データを本人に提供したら、本人から競合する他社に渡ってしまうではないかと、心配するかもしれない。

「その心配は不要です。こうして個人データを活用するビジネスが世の中全体で盛んになれば、全企業の収益の合計が増えます。その収益の増加分を貢献度に応じて分配するエコシステムが生まれるでしょう。つまり、個人データの収益が還元される時代がくるのです」

   たとえば、タクシー業界ではすでに競合する他社同士でリソース(資源)を共有するシステムが運用されている。スマホで最寄りのタクシーを呼ぶ「全国タクシー配車アプリ」だ。全国133のタクシー会社が参加している。

   橋田さんは「日本交通のタクシー配車アプリで国際交通のタクシーを呼んだ場合、国際交通は日本交通にペイバックするし、客にポイントも入る。アプリというリソースを競合する企業間で共有することで、みんなが幸せになる好例です。こういう事例が個人データに関しても現われるでしょう」と語った。

個人データを安全に運用する「情報銀行」とは

今川拓郎さんは「情報銀行というビジネスが登場する時代がやってくる」と言う。
今川拓郎さんは「情報銀行というビジネスが登場する時代がやってくる」と言う。

   次に登壇したのが、総務省で個人データ活用の推進を担当している今川拓郎・情報通信政策課長だ。今川さんは、「個人データの提供先として、『情報銀行』(情報利用信用銀行)というビジネスが登場する時代が、もうすぐやってきます」と強調した。

   「情報銀行」とは、これまでの購買履歴や活動記録などの個人データを預かって管理する事業者のこと。預かった個人データを欲しがる事業者を個人に代わり評価してデータを提供、得られた便益を個人に還元する=図4参照。還元される便益には、おカネやポイント、サービスの割引などが考えられる。

図4:情報銀行のイメージ(内閣官房IT総合戦略本部・データ流通環境整備検討会の中間とりまとめ案より=2017年2月)
図4:情報銀行のイメージ(内閣官房IT総合戦略本部・データ流通環境整備検討会の中間とりまとめ案より=2017年2月)

   おカネと個人データの違いはあるが、預かった「価値」を運用する点では金融機関に似ている。2016年12月に施行された「官民データ活用推進基本法」に基づいて構想されており、2018年6月に情報銀行を認定するガイドラインができたばかり。具体化するのはこれからだ。

   今川さんはこう説明した。

「先ほどの橋田さんのPLRが管理事業者を介さず、個人でパーソナルデータ(おカネ)を運用するようなものとするなら、情報銀行は、パーソナルデータをまとめて投資信託するようなものと考えるとわかりやすいでしょう」

   ただし、自分のデータがどう使われるかについて、日本人は不安感が強く、諸外国に比べると許容度が低いと今川さんは指摘する。

「ある調査では、8割近くの人がパーソナルデータの活用に理解を示す一方、同じように8割の人がどのように扱われるか不安を持っています。安全性をどう確保するかのルールづくりが課題になります」

   そこで、次のように情報銀行をコントロールできる仕組みを考えている。

   (1)パーソナルデータの第三者提供の履歴をすぐ閲覧できる。
   (2)同意を撤回して第三者提供の停止を求めることができる。
   (3)保存されているパーソナルデータの開示を請求できる。

   また、情報銀行各社に「データ倫理審査会」(仮称)を設置、データの提供が適切に行なわれているか、セキュリティが万全か、プライバシーが保護されているか、損害が発生した場合に賠償がなされているかなどをチェックするシステムも導入される。

   今川さんは「利用者が安心してパーソナルデータを預けられると同時に、データポータビリティ(持ち運び可能)を進めて、パーソナルデータが効果的に活用されていく仕組みを考えています」と結んだ。

(記者:福田和郎)

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