2018年 9月 19日 (水)

【連載】事業承継のサプリメント(その1)どうする多額の連帯債務!?(湊信明)

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   事業を次の世代に、どう遺す、どう託すのか――。少子高齢化の進展で、事業承継が難しくなっています。大企業であれば、いざ知らず。中小・零細企業は「後継者不足」を理由に、事業の継続を断念する会社もあるほど、深刻な状況に陥っています。

   70歳、80歳...... 気力、体力もそろそろ限界。

   「会社経営なんてそんな、わたしに託されてもどうしようもない」

   こんなことにならないよう、まずは準備をはじめましょう。弁護士で税理士の、湊信明先生が、わかりやすく説きほぐしてくれます。

  • 町工場の事業承継は深刻です……
    町工場の事業承継は深刻です……

連帯債務、事業承継に二の足を踏んでしまいますよね

   私の父は、一代で会社を起こしましたが、そろそろ70歳となり体力も衰えはじめ、認知症も心配されるようになりました。

   父や会社の役員たちは、私に父の跡を継ぐことを望んでいます。私としてもそれは嬉しいことではありますが、一つ大きな悩みがあります。それは、父の会社がいくつかの金融機関から合計2億円ほどの借り入れがあり、父がその連帯保証をしているのです。私が父の跡を継ぐと、この連帯保証を引き継がねばならない可能性が高いことです。父の会社は決して財務状況がいいわけではないので、私の妻は父の跡を継いでしまって連帯保証債務を引き継ぐことに反対しています。

   こうした場合、私はどのようにしたらいいのでしょうか。

   「連帯保証債務をどうするか、それは現時点で検討すべき急務です」

   事業承継に際して、現経営者が負っている多額の保証債務を引き継ぐがねばならないか否かは、事業承継に応じて代表取締役の地位を引き継ぐかどうかの意思決定において大きな問題となることがあります。

   相談者のケースは、現経営者が自分の父親であり、このまま放置しておくと経営者である父親が死亡した場合には、相続放棄をしない限り連帯保証債務を相続によって包括承継することになってしまいます。また、この父親は認知症の心配もあるということですから、認知症になってしまって判断能力を失うと、保証債務を解除してもらうための交渉を金融機関と話し合うことも困難になってしまいます。

   多くの中小企業では、金融機関からの借り入れに際して、代表者が連帯保証しているので、円滑な事業承継を実現するためにも早くから経営者の連帯保証をどうするかについて、検討しておく必要があります。

   相談者の場合には、すでに急務中の急務という状況に立ち入っていると言ってよいでしょう。

「経営者保証に関するガイドライン」を活用する

   こうした場合、「経営者保証に関するガイドライン」を活用することがよいでしょう。

(1) 経営者保証ガイドラインとは?

   さて従来は、金融機関は後継者の経験やノウハウが乏しいことが多いことなどを理由に、事業承継に際して経営者保証を解除することに、消極的な対応をすることが一般的でした。

   しかし、現在の経営者の保証債務を引き継がねばならないとすると、スムーズな事業承継ができないことになりかねないことから、日本商工会議所と全国銀行協会は、「経営者保証に関するガイドライン研究会」を設置して、「経営者保証に関するガイドライン」を策定しています。

   この経営者保証ガイドラインでは、 金融機関に対しても事業承継時に現経営者との保証契約を解除することについて検討することを求め、あるいは後継者との保証契約の必要性などを改めて検討することを求めています。

   経営者保証ガイドラインにそって、事業者が財務基盤の強化などの取り組みを進めることで、金融機関が経営者の個人保証の解除に応じる場合があります。 実際、事業者から金融機関に対する申し出や相談の結果、46%で経営者保証が解除された(される予定)ということですから(東京商工リサーチの「経営者保証に関するガイドライン認知度アンケート報告書 2016年2月」より)、これを利用しない手はありません。

(2)連帯保証解除の要件

   経営者保証ガイドラインによって、金融機関が経営者保証の解除に応ずるためには、以下の要件が検討されていきますから、これに従って対策していく必要があります。

《会社と経営者との関係の明確な区分、分離》

   中小企業の場合、会社から経営者に貸し付けが行われるなど、会社と経営者が混然一体として運営されてしまっている場合があります。こうしたことが行われている限り、会社の資産が経営者に流れてしまいますから、金融機関としてはどうしても、経営者に会社債務に対する連帯保証をさせて一体的に把握する必要が出てきてしまいます。

   ですから、事業承継に際しても、連帯保証を外してもらいたいと希望するなら、こうした運営をやめて、会社と経営者との資産を分離し、会社経理と家計を分離するなど、会社と経営者とを明確に区分ないし分離しなければなりません。

《財務基盤の強化》

   金融機関が会社経営者に連帯保証を求める理由は、会社所有資産との企業運営からだけでは、返済能力に不安があるからです。
ですから、会社の資産と収益で、金融機関からの借り入れを返済可能と判断できる財務状況と経営成績があれば、連帯保証を解除してもらえる可能性が出てきます。できる限り、そうした状況に近づくように経営努力をしていくべきでしょう。

《財務状況の適切な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保》

   よく「お化粧した決算書」などといって、金融機関に提出するために自分の会社の財務状況と経営成績をよく見せるために、決算書を別に作成するということが中小企業ではあります。

   また、真実を告知する場合でも経営者が会社の経営に追われて、金融機関が必要としているときに必要な情報が提供されないということもあります。

   こうしたことが行われている限り、金融機関としては中小企業が提出してくる決算書その他の書類の内容の真実性に疑いを抱かざるを得なくなり、また適時適切な情報開示がなされないことを恐れて、経営者に対する連帯保証を求めざるを得ないことになります。

   ですから、経営者及び後継者としては、連帯保証を外してもらうことを希望するなら、内容の真実性が担保されていることを前提として、年1回の決算報告(貸借対照表、損益計算書、勘定科目明細書など)や、定期的な試算表、資金繰り表などの報告をしっかり行うことが求められることになります。

(3) 連帯保証が解除された事例

   こうした要件はかなり厳しいもので、実際に連帯保証が外されるには、相当高いハードルがあるように思われたかもしれません。もちろん、金融機関が連帯保証の解除に応ずることは現在でも容易いことではありません。しかし、金融庁が発表している「『「経営者保証に関わるガイドライン』の活用に係わる参考事例集」を見ても、法人と経営者との関係の区分、分離が不十分な事例でも、それまでの返済状況にまったく問題がなく、前経営者の実質的な経営権ないし支配権、既存債権の保全状況、法人の資産、収益力を勘案して、ガイドラインの趣旨に則って連帯保証の解除に応ずるなど、現実にはかなり柔軟に対応していますので、悲観的にならずにぜひ挑戦していただきたいと思います。

裁判所が利害関係の調整を図ってくれる

   「特定調停」を活用する方法もあります。

(1)特定調停とは?

   特定調停とは、債務者(中小企業)の経済的再生を目的として、金融債務にかかる利害関係の調整を図る整理手続の手法のひとつであり、裁判所の調停手続において行われるものです。

   強制的な手続きではなく、当事者間の話し合いと合意に基づいて形成されるもので、非公開で行われる手続きです。

(2)事業承継に伴って特定調停を利用するメリット

   事業承継に伴って、現在の経営者及び後継者の候補者が、金融機関に対して債務額の減額や連帯保証の解除を申し入れても、合意が成立できないことがあります。

   そうしたときは、この「特定調停」を利用することにより妥当な解決が得られる可能性があります。

   それは、特定調停制度では取引先など他の債権者を巻き込むことなく、金融機関に限定して交渉することが可能ですし、裁判所の手続きであり、中立な調停委員が入る公正な手続きであることから、裁判所外での手続きでは消極的であった金融機関も特定調停であれば応ずるということがあるからです。

   また、金融機関にとっても債務免除にも応じた場合には、無税償却ができるというメリットがあり、合意が成立しやすくなっているということもあります。

   さらに、特定調停制度には「17条決定」といって、調停成立の合意が得られない場合に、裁判所が当事者双方の意見を聴いて、当事者双方のために公平に考慮して、職権で当事者双方の申し立ての趣旨に反しない限度で、事件解決のために必要な決定をすることができます。

   そして、当事者が決定の告知を受けてから2週間以内に異議の申し立てをしなければ、調停成立と同じ効力が生じます。調停成立に消極的な金融機関も裁判所の決定に楯をついてまで反対派しない、ということで首を縦に振ることもありますから、極めて有効な制度といっていいでしょう。(湊信明)

湊 信明(みなと・のぶあき)
弁護士・税理士
湊総合法律事務所所長。1998年弁護士登録(東京弁護士会)。約200の会社と顧問契約を締結して、中堅・中小企業に対する法務支援を中心に弁護士業務を行うほか、企業の社外取締役や社外監査役、学校法人の監事などにも就任。企業や組織の運営にも携わっている。
「濁流に棹さして清節を持す」がモットー。
2015年度、東京弁護士会副会長。関東弁護士会連合会常務理事。2017年度、東京弁護士会中小企業法律支援センター本部長代行など。
主な著書に、「勝利する企業法務 ~実践的弁護士活用法―法務戦術はゴールから逆算せよ!」(レクシスネクシス・ジャパン)「小説で学ぶクリニックの事業承継 ―ある院長のラストレター」(中外医学社)「伸びる中堅・中小企業のためのCSR実践法」(第一法規)などがある。
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