2024年 4月 19日 (金)

「傲慢」「ずさん」...... 新聞社説が総スカン! サマータイムが嫌われすぎ

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   夏に時計の針を1~2時間進める「サマータイム(夏時間)」の導入論が急浮上している。

   2020年東京五輪パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が2018年8月7日、屋外競技の猛暑対策などを理由に安倍晋三首相に導入を求め、首相が「内閣としても考える」と自民党に検討を指示したからだ。

   ところが、働き方改革や原発再稼働などの問題では賛否が割れる大手新聞が、ことサマータイムに関しては、社説でそろって反対の論陣を張っている。なぜ反対するのか、どこに問題があるのか、大手各紙の社説を読むと――。

  • 殺人的な暑さが心配な2年後の東京五輪
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五輪という「錦の御旗」でゴリ押しする気か!

   新聞各紙の社説がまず問題にするのは、サマータイム制度が突然浮上した経緯だ。東京(中日)新聞は8月21日付の「サマータイム 『五輪のため』という傲慢」で、こう指摘する。

「今回の要請はいかにも唐突だ。大会まで2年に迫ったタイミングである。(大会組織委の森喜朗会長が)今夏の猛烈な暑さに驚き、慌てて思い付いたかの印象だ。『五輪のため、国家の一大事業のため国民は受け入れるべきだ』といった傲慢さえ感じてしまう」

   朝日新聞は、

「五輪を掲げれば、無理な話も通ると思っているのだろうか。号令一下で人々を動かそうとするかのような発想は、あってはならない。『錦の御旗』を振り回して日常生活への影響を当然視する姿勢に陥れば、『レガシー』(遺産)にも傷がつく」(8月12日付)

と主張する。

   そして、五輪の暑さ対策を理由にするのなら、的外れだと各紙は批判する。

「自民党内では、五輪に間に合わせるため、2019年から試験実施する案も出ているが、拙速ではないか。五輪対策であれば、競技時間の変更で事は足りよう」(読売新聞、8月19日付)
「東京五輪での暑さ対策が狙いなら、競技の時間を変えればいい話だ。あまりにずさんな提案に驚くしかない」(朝日新聞、8月12日付)

   そもそもサマータイム制度の導入は、マラソンや競歩など長時間、屋外で行われる競技への対策として考えられている。これらは早朝にスタートするが、夏時間だと現在よりさらに早くなり、涼しい時間帯に競技が進むからだ。

   しかし、そうすると、別の問題が生じてくると各紙が指摘する。

「一方、夕方以降の競技は、逆に暑さが厳しい時間帯になる。たとえば夏時間で午後6時に始まる競技は、現在の午後5時開始という具合にだ。競技日程には、巨額の放映権料を支払っている米国メディアの意向が反映されている。夏時間を導入すれば、当初の日程とずれが生じる。米国との調整は図れるのか。大会運営全体を考えての提案なのか疑問が拭えない」(毎日新聞、8月10日付)

「体内時計が狂って体調を崩す」と欧州でも健康被害

   サマータイムの導入は、国民の健康に悪い影響を与えるという点でも各紙は一致している。

「サマータイムは、緯度が高い国で夏の日照を有効活用するための仕組みだ。だが近年、冬時間と夏時間の切り替え時に、従来の想定以上に睡眠と健康に影響を及ぼしているとの研究結果が出ている。日本睡眠学会も、いまでも短い日本人の睡眠時間をさらに削り、健康障害を広げかねないと警告している」(朝日新聞、8月12日付)
「夏時間を長年採用してきた欧州でさえ、見直しの機運が出ている。欧州連合(EU)は『体内時計が狂って体調を崩す恐れがある』など、睡眠や健康への悪影響を理由に存廃の検討を始めた」(読売新聞、8月19日付)

   健康被害に関連して、「働き過ぎ」につながる心配の声もある。

「外が明るい時間に仕事が終われば、家族らと過ごす時間が増え、個人消費の活性化につながるとの期待もある。だが、始業時間を早めても終業時間が今と変わらなければ、労働時間が長くなる恐れもある」(産経新聞、8月9日付)
「一般の企業にも、明るいうちは仕事を続けようという意識が抜けず、結果的に残業が増えることを心配する声がある。『働き方改革』に逆行しないだろうか」(読売新聞、8月19日付)

元号変更のシステム更新と重なり経済が混乱

   特に、システムの変更による経済の大混乱を心配するのが、日本経済新聞の8月23日付「サマータイムの拙速な導入は避けよう」だ。

「まず懸念されるのはコンピューターシステムの対応だ。深夜時間帯の自動データ処理など、見えない『時計』で動くシステムは多い。皆が手作業でパソコンの時刻設定を変えればよい、といった話ではない。やはり大がかりなシステム上の変更が必要となった『2000年問題』の場合、金融業界は前年半ばにはシステム修正をほぼ終え、点検段階に入った。米マイクロソフトも夏時間などへのシステム変更には1年以上かけるよう助言している」

   つまり、長い準備期間が必要なわけだが、読売新聞の8月9日の「サマータイム 効果と弊害の慎重な見極めを」でも、今回はその時間が少ないことを指摘する。

「鉄道や航空など交通機関ではダイヤ変更に手間がかかる。ある鉄道会社は『始発を早めても、終電の前倒しは苦情が出る可能性があり、難しい』と困惑している。鉄道各社は、夜間の保守点検時間の不足も懸念している。もし2019年から試験実施することになれば、来春の元号変更に伴うシステム更新とも重なる。企業や社員の負担はさらに増そう」

   そもそもサマータイムは、かつてGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって戦後日本に導入されたが、失敗した経緯がある。8月19日付の「しんぶん赤旗」によると、「サマータイム検討 悪夢を復活させるというのか」で、こう歴史を振り返っている。

「だいたい1948年に実施されたサマータイムが1952年に廃止されたのは、国民の過労の原因になり能率を低下させ、生活の実情にそぐわない不便な点が多かったためです」

   それが今、突然浮上してきたのには、こんな背景があるという。

「旗振りの中心にいるのは財界団体です。第1次安倍政権下の2007年に、経済団体連合会はサマータイム導入を積極的に提言し、『骨太方針2007』に「早期実施の検討」が盛り込まれました。当時の経団連会長は御手洗冨士夫氏で、現在の東京五輪組織委員会名誉会長。同組織委の森喜朗会長や安倍首相らと一緒になり、長年果たせなかった『宿願』を五輪にかこつけて実現するのが狙いなのか......」

   いずれにしろ、これほどメディアがそろって反対する制度を導入したとして、国民一同が喜んで五輪を迎えることができるのだろうか。(記者:福田和郎)

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