どうする!? 急増する実家の「居候独身」(後編)研究者インタビュー

   実家で親と同居する独身男女が増えているが、彼ら彼女らは「独身王子」「独身王女」のごとく振る舞い、家族、特に母親を家事手伝専門の侍女のようにかしづかせている有様だ。

   こうした居候王子・王女に、親たちはどう対応したらよいのか――。「居候独身」シリーズの後編は、レポートを発表したニッセイ基礎研究所の研究員、天野馨南子(かなこ)さんに話を聞いた。

  • 「婚活は一時も早く始めよ」(写真はイメージ)
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子どもを「親依存」にする親こそ問題だ

   ――中央大学教授の山田昌弘さんが20年ほど前に『パラサイト・シングルの時代』という本を著し、「パラサイト・シングル(親に寄生する未婚者)の増殖が日本に景気下降や社会モラルの低下をもたらしている」と警鐘を鳴らしました。天野さんのレポートは、実家暮らしの独身者がさらに増えて、より深刻になっている実態を明らかにしているように思えます。

天野馨南子さん 未婚者の同居比率が異常に高いことは、国立社会保障・人口問題研究所が大々的に行う5年に1回の「出生動向基本調査」(いわゆる独身者調査)でビッグデータが示しています。私は、この意識調査結果を最初に目にした時から「これはまずい!」と、海外との親子文化差異比較で思い、常々指摘したいと考えておりました。
   海外、特に白人社会は狩猟民族がルーツですので、成人になること=(親と離れて)別の狩場を持つこと、なのです。親とは別の狩場を確保できる子に育てないと、親子が食料をめぐって共倒れになる可能性が高まります。元狩猟民族の彼らにとって、「親から自立した子どもに育てる」ことこそが、何よりの「親の甲斐性」「子育てのあるべき姿」なのです。
   「パラサイト・シングル」という言葉だけだと、一般的には親に甘えて寄生している子どもを問題視して、一方的に子どもを叩いている響きにとらえられがちです。しかし、「子は親の鏡」です。私がレポートでむしろ伝えたいことがあるとすれば、子どもの親依存的な生活よりも、「子どもを親依存状態にさせたままでいる親にこそ問題があるではないのか」ということです。

   ――どういうことでしょうか。

天野さん カウンセリングの世界ではこのような状態を「共依存」(きょういぞん)として問題視します。「共依存」は最初、米国でアルコール依存症患者の社会復帰に関して、支援者の間から提唱された言葉です。重度の依存症患者の男性には必ずといっていいほど、「私が彼を見捨てたら彼は終わりなの」と健気に男性を支える母親や妻がいるのです。しかし、支援者は彼女たちを切り捨てない限り、患者に反省やなんの痛みもなく、復帰がありえないことに気がつきます。
   DV(ドメスティックバイオレンス)も同じです。酒乱の夫から暴力をうけ、アザだらけになりつつも彼のために仕事を掛け持ちして借金を返済し、トラブル先に謝罪回りする妻は、彼に残酷に支配されているように見えます。「あんな男を支えるなんて、信じられない」「別れたらいいのに」と周囲から気の毒がられるわけですが、実はこれこそが彼女が潜在的に求めている「社会的評価」なのです。
   自分より駄目な人間を支えることで、彼女もまた社会的に居場所がない、活躍していない、評価が低い、といった状態にあることをごまかしている間違った自己実現行為です。アルコール依存症患者の「精神的支配者」(専門的には「イネーブラー」、共依存を支える人といいます)は母親や妻なのです。彼女たちこそ、依存症を生み出し続ける真のラスボス、なのです。

マザコンが先か、ムスコンが先か?

   ――そうすると、居候独身者が増える原因には親、特に母親の責任があるということですか。

天野さん はい。これは少子化の負のループの一面ともいえます。私の祖父母世代は兄弟姉妹が9人、10人などというのが普通でした。ですので、子どもたちは当然に親の愛情をできるだけ引き付けようと「オレオレ、ワタシワタシ」とやっていました。しかし、ここ半世紀ほど子どもは2人で推移。親の愛情争奪戦の相手はいても1名程度です。しかも高度成長期に専業主婦が登場、妻は「亭主元気で留守がいい」、夫は「24時間闘えますか」で、妻は子どもにたっぷり「愛情」という名の暇つぶし、夫との関係の代償行為を注ぐようになりました。
   これは兄弟姉妹が多く、共働きが前提の農村社会では起こらなかったことでした。こうして、母子密着化、恋人親子化、子どものブランド化が育まれたと思っています。今年(2018年)7月、エリート銀行員の息子が殺めた妻を、母親が一緒に庭に埋めた事件が話題になりました。彼女は自分の病気の悩みなどを、夫ではなく元カレに相談していました。そして、会うたびに息子の話ばかりをして、「息子が可愛くて仕方ない、溺愛している」と涙ぐんでいたと言います。この母親のケースが象徴的です。

   ――そうすると、独身男性はマザコン、母親はムスコンというケースが多いのでしょうか。

天野さん レポートのデータを見るとわかりますが、独身者は「母親と同居」が非常に多い。男女とも各年代で「父親と同居」の6~13倍と、段違いに多いのが特徴です。高度成長期には休日出勤・長時間労働が当然とされ、イクメンなんてありえなかった時代が続きました。専業主婦のワンオペ育児が母子密着を生み出し、結果として子を溺愛するようになったことが元凶と思います。
   母親と娘の関係が「友達親子」になるのに比べ、母親と息子は「恋人親子」に向かいます。子どもは何もわからずに生まれてくるわけですから、順序としてはまずムスコンがあり、それからマザコンですね。

「居候独身」はペットか?

居候独身者が増える原因には親、特に母親の責任なのか!?(ニッセイ基礎研究所・研究員の天野馨南子さん)
居候独身者が増える原因には親、特に母親の責任なのか!?(ニッセイ基礎研究所・研究員の天野馨南子さん)

   ――天野さんは、実家に居候する独身者は「加齢しても子どもとして居場所をキープする」と書いています。

   犬や猫はいつまでたっても子どものように可愛く甘えますが、これは親が「独身者をペットのように可愛がる、ペット化する」という理解でいいのでしょうか。

天野さん ブランドバッグのように思っているのでは。もしくは血統書つきペットでしょうか。親にとっては他ならぬ「私の」遺伝子を受け継いでいて、自分への自己愛も含めて可愛くて仕方がない。それを手塩にかけてこんなに立派に育てた。だから(私よりも、または、私の気にいる)すごい女性にしか、あるいは男性にしか渡せないという気持ちです。
   実際、団塊世代の女性からは「夫より息子のほうが理想の男性」などという意味不明な発言を聞きます。私からすると、息子はいずれ他の女性の元へいくので、それって超負け組女性の意見、に思えるのですが(笑)。
   たとえば、パワハラを訴えた体操女子選手の親御さんは、映像から見る限り誰が考えても凄惨な暴力をふるうコーチに、娘の指導継続を求めました。私は、同じ娘を持つ親として理解できません。この人たちは、「オリンピック選手の親」という肩書き、ブランドがほしいのでしょうか。子どもは国産の自動車よりも「世界で誰もが知る」外国ブランド車であってほしいのでしょうか。

   ――レポートでは、「男女ともに50代以降は親の介護が発生するため、実家に同居する割合が増えるのではないかと予想したのに、むしろ減少した」と書いています。これは、結婚して親になれば親の苦労がわかるが、独身者にはわからないから親に冷たいとは考えられないでしょうか。

天野さん 自己愛に満ちた親が育てた子どもは、同様に自己愛に満ちていると思います。しつこいですが、「子は親の鏡」だからです。実家暮らしの独身者は、親から多大なメリットを受けても親には感謝はしていません。だから、年老いた親が自分にとって使いものにならなくなったら、いらないのです。
   これは親の立場でも同じ。体操選手の親御さんが「オリンピックに行けるよう、暴力をもってしてでもわが子を指導してほしい」、つまり「自慢できない子なんてほしくない」というのと全く同じこと。相手の立場ではなく、自分の立場からしか「愛している」と思えないということです。
   カウンセラーの世界では、これを「条件付の愛情」と呼びます。「......できるからいい子ね」と育てると、子どもは自己肯定感が低くなり、精神衛生上よくないとされています。また、親が何ごとも先んじて火消しして育てているために、自分が否定されがちな環境が非常に苦手になりがちです。結婚生活もその一つといえるでしょう。

50代独身男性は年上女性に活路アリ!

   ――なるほど。親が先回りしてアレコレ手を焼くと、子どもは居候独身者になりやすいというわけですね。ところでレポートでは、独身者は「おひとり様の老後」が不安なので、やっぱり45歳ごろから婚活を始める、とあります。こういう男女にどうアドバイスしますか。

天野さん 子どもがほしいのでなければ、45歳以上でも壁にはなりません。むしろ、「親亡き後は危ない人生ではないのか」とよく気がついたと思います。そして、気がついたなら1日も早く即行動です。実際、都内の結婚相談所の多くは40代の登録が一番多いと聞きます。そういう上の世代を見て、今の若い人は「結婚できるならさっさとしたい」と考えていますので、身近での異性のキープが早めです。
   若い女性は、人口減で相手候補が少ないことを実感しています。男性のほうがボンヤリして出遅れています。結婚マーケットは30代前半から一気に離婚経験者、特に女性が増えていきます。そして、同世代結婚が主流になっていますから、年齢が上がるほど相手候補が少なくなり、不利になります。
   「私は失敗したことは1度もない。ただ1万回、結果が出なかっただけ」というエジソンの言葉を胸に刻みましょう。最近、50代独身・婚活中の男性からメールを頂きました。「同じ年代を探せといわれるが、バブル世代の女性は金持ちで華やかな相手しか見てくれない。10回も動いたが見つからない(だから年下がいい...と言いたげ)」とあります。
   彼への処方箋は「華やかな相手を求める華やかな50代女性を、あなたが好むことが成果の出ない理由では。50代女性全員がそういう女性ではない。エジソンは1万回挑戦したのに、わずか10回でくじけてはダメ。いっそ年上女性を狙っては」でした。

   ――年上ですか。それはまた、意外なアドバイスに思えますが。

天野さん 50代の男性には、年上女性を狙う婚活を「がけっぷち活動」という人がいますが、本当に「崖っぷち」でしょうか? 女性は男性よりも長生きします。60代後半で約50万人、70代後半では約120万人以上も、女性のほうが男性よりパートナーと死別した方が多いのです。
   あるイケメン男性は、30代までジゴロ生活で、ひと回りも下の女性と恋愛していましたが、40歳前からさっぱりモテなくなりました。大慌てで10年間も婚活したあげく、50歳を前にした「がけっぷち活動」で、やっと結婚できたという例があります。

   ――そうか! 年上女性の結婚マーケットはとても広いということですね。

天野さん 私は長く祖母の介護をしました。おひとり様の老後は危険しかありません。病気・事故・貧困・防犯・防災......。いいことなしです。本当に「どうしても結婚できない」ならば、実家の親とではなく、同性とでも、施設でも、他の誰かと一緒に暮らすことを視野に、早めに活動してほしいです。高齢層を支えきれない社会が日に日に迫っています。今の社会保障が5年後、10年後にあると思っては絶対いけません。(福田和郎)

●プロフィール
天野馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所・生活研究部研究員
1995年日本生命保険入社、99年ニッセイ基礎研究所に出向。内閣府の「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査」企画・分析会議委員、愛媛県法人会と松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバーなどを歴任。真の日本の女性活躍推進・少子化対策のあり方を考察・提言を発信している。

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