2018年 11月 14日 (水)

社長が挑む「社風改革」 変わる上層部と置き去り社員のギャップを埋めるには(大関暁夫)

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   3か月前に、私が懇意にする企業に転職した30代後半になるMさんから、「思ったように社風に馴染めず、どうしたものか悩んでいる」とのメールが入りました。

   Mさんは技術系大学を卒業後、大手電機メーカーに就職。約10年勤めて大手IT系ベンダーに転職しました。両社では主に営業、企画畑を歩んできたのですが、「声を上げても上まで届かない大企業組織を一度出て、ベンチャーで経営者と共に企業の成長に尽力してみたい」と、今年(2018年)初めにお目にかかった際、相談を受けたのでした。

  • 「社風改革」真っ只中の会社で立ち位置に悩む……
    「社風改革」真っ只中の会社で立ち位置に悩む……

転職3か月、会社での立ち位置がわからず......

   そんな折も折、懇意にしているIT系ベンチャー企業W社のT社長から技術営業ができる幹部候補を探しているとの話があったので、「試しに社長と会ってみますか」とおつなぎしました。

   双方初対面から好印象でしたが、特に社長の熱意が強く、Mさんが絡むプロジェクトが落ち着くのを待ってでも、との申し出があって、Mさんは7月からW社で働き始めたのでした。

   もちろん、私も場渡り的にW社を紹介したわけではなく、元々オーナー系ベンチャー企業ではあるものの、3年前から一部上場企業のグループに入り上場を目指していることから、組織管理も比較的しっかりしていたことが大企業育ちのMさんに向いているかもしれないと思った大きな理由でした。

   さらに、組織運営も社長のワンマンではなく、親会社の意見も取り入れながら合議制で物事を決めるという大企業スタイルに移行したと聞いてもいたので、より一層馴染みやすいのではないかと判断して、おつなぎしたのです。

   ところが、転職3か月で「馴染めない」とは、いったい何があったのでしょう。とりあえず電話でMさんの話を聞いてみることにしました。

「社員はいい人ばかりなのですが、熱量が足りないというのか、皆自分でモノを決めようとしない。これまでの会社では、より上層部に自分の意見を届かせようとする人たちばかりだったので、全然違うのです。
T社長も親会社に気を遣っているのか、自分一人の意見で会社を動かそうとしていない感じなので、どうも議論が宙に浮いたまま誰も球を拾おうとしない、そんな状況です。私もまだ会社の全容がわからないので出しゃばっていいものか悩ましく、このままこの風土に埋もれないと生きていけないならやめるしかないのかなと」

イケイケ社長がつくった「決められない」企業風土

   2017年にW社の組織管理が変更になった折に、T社長からは「上場に向けて、合議制を旨とする組織管理を定着させるために大幅な権限委譲を実施し、私も一メンバーとして参加する執行役員会議で大半のことは決めるやり方に移行した」と聞いていました。

   さらに今年に入ってからは、「新しいやり方が徐々に組織に馴染んできて、組織風土が変わりつつある」と、順調そうなことも聞いていただけに、Mさんの話はちょっと意外でした。

   組織構成とMさんのポジションを確認すると、W社は社員70人ほどの組織で、Mさんは一般管理職で部門長の補佐役として部門管理の一翼を担う仕事を任命されているとのこと。部門長のさらに上席に執行役員が位置し、複数部門を束ねた事業部長を兼務している、そのようなライン構成になっているとのことでした。

   この構成を聞いて私が気になったのは、社長が権限委譲して物事を合議制で決めることに慣れてきた執行役員までと、その下に連なる部門長以下との間に風土ギャップが生じているのではないか、ということです。

   すなわち、日常的に社長とやり取りがある執行役員や事業部長クラスまでは、組織風土改革の流れに乗っているものの、部門長以下担当レベルまでは古い風土の中に取り残されてしまっているのではないかと。

   組織の上層部分は変わろうとしているにも関わらず、下層部分は以前の社長決裁で重要事項を決めてきた流れの中で、「自分たちは何も決めなくともいい」という風土が継続されている。上層部分の変化を聞いて、大企業育ちのMさんでも馴染みやすい組織になりつつあるに違いないとの判断は、ある意味私の早とちりだったかもしれないと思うと、W社を紹介した手前Mさんには少し申し訳ない気持ちになりました。

社長が「ウチにほしい」と強く思ったワケ

   そこで、さっそくT社長のアポイントを取り、大企業の傘下で株式上場をめざす中で、担当者レベルまでを含めた組織風土の改革をどう考えているのか、を聞いてみました。すると、驚きの回答が待っていました。

「ベンチャー企業は会社を発展させていく中で、ある程度までは社長が腕力で引っ張っていくしかない。ただ上場を見通した際には、その先でいつ自分がいなくなっても大丈夫な組織をつくっておかないと、株主に迷惑かけることになりますから、ここが試練です。
そのために、今あえて大企業の傘下に入って風土を変えようとしているわけですが、多くの社員に身に付いた待ち受け的な業務姿勢はなかなか抜けないものです。幹部を変えてもまだ先は長い。Mさんは、いい人を紹介してもらいました。大企業で自分の意見を上に通そうとして大組織の壁に嫌気したというあの気概が、ウチにほしいと強く思ったわけです」

   なるほど、ワンマン体質に不満をもつ中小企業社員は多いのですが、慣れてしまえば自分で決めなくていいという、こんなにラクな職場はなく、そのムードは蔓延しがちです。しかし上場を考えるなら、それではダメ。そんな組織状況を変えてくれる起爆剤。それが大企業で主体性をもって働いてきたMさんだというわけです。

「私も社会人のスタートは大企業でした。Mさん同様、足先の痛みがアタマにまで届かないようなマンモス組織はダメだと会社を飛び出したクチですから、面接での彼の話に忘れていた昔を思い出させられ、今ほしいのはこんな人材だと強く思ったのですよ」

   Mさんに社長の話を上手に伝えることで、現状立ち位置が見えないMさんのモチベーションは確実に転換できると思います。そうなれば、彼はきっとW社の将来をかけたターニングポイントづくりのキーマンになってくれるだろうと、紹介者の立場で期待しています。

(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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