2024年 4月 26日 (金)

プロ野球にみる「長期戦」「短期戦」のマネジメント 人のチカラを引き出す戦い方(大関暁夫)

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   野球の話で興味のない方には恐縮ですが、プロ野球はセ・パ両リーグで、日本シリーズに出場する前哨戦のクライマックス・シリーズを終えて、いよいよ日本一決定戦の日本シリーズが開幕しました。

   セ・リーグは今シーズン、圧倒的な強さでリーグ優勝を決めた広島東洋カープが読売ジャイアンツを下して順当に日本シリーズに駒を進めましたが、パ・リーグはリーグ優勝の埼玉西武ライオンズが2位の福岡ソフトバンクホークスに破れるという番狂わせがありました。

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ソフトバンク・工藤監督の投手起用の妙味

   今シーズンの西武ライオンズは4月の開幕から絶好調で、6か月にわたるシーズン中、一度も首位を譲ることなく、最終的に2位ソフトバンクに6.5ゲーム差の大差をつけて優勝したのです。

   しかも、直前の9月の直接対戦成績は西武が5勝1敗と圧勝。ところが、短期決戦である10月のクライマックス・シリーズでは2勝4敗で敗退。2勝のうち1勝はリーグ優勝チームのアドバンテージとして無条件で与えられるものなので、実質的には1勝4敗というまったく予想外のワンサイドな展開で破れたのです。

   この意外な展開に、巷で盛んに言われていたのが「短期決戦の難しさ」という表現でした。さらには、「監督の力量の差が出るのが短期決戦」などと言う意見もチラホラ。これは何やら戦略的マネジメントにも通じるヒントがありそうだと興味を持って、あれこれスポーツメデイアを読み漁り、専門家の分析をあたってみました。

   すると、大御所の野球評論家氏の勝敗分析に、かなり興味深いものがあったのです。

「勝敗を分けたのは、両チームの投手の使い方にかかわる戦略の違いかと。西武の辻監督は今シーズン他チームを圧倒したリーグ優勝の自信からか、シーズン中とほぼ同じ投手ローテーションと継投策を取っていました。
一方、ソフトバンクの工藤監督は、デキのいい二人の先発投手を短期決戦用に、あえて複数イニングを担当するリリーフに回し、相手を混乱させる策に。これが強力打線を黙らせました。常勝ソフトバンクの強さを垣間見た思いです」

   なるほど。この5年で3回日本一になっており、まさに短期決戦の戦い方を知り尽くしているチームの強さということなのかもしれません。

長期戦と短期戦の使い分けは有効

   長期戦と短期戦では戦い方を変えるという考え方は、企業マネジメントにおいても意外に有効な話であると、とあるエピソードを思い出しました。

   銀行時代の取引先で携帯電話の販売代理店を運営するT社。もう10年ほど前の話ですが、当時は基本的に半期ごとの携帯電話の販売台数による関東圏順位で通信キャリアからの、いわゆる獲得インセンティブが決まるという制度で、T社は常に上位に位置し、それなりのボーナス収益を毎期獲得していましたが、企業規模の問題もあってなかなか1位を獲るのが難しい、そんな状況にありました。

   そんな折、携帯電話の番号を変更せずに契約を別キャリアに動かせる「ナンバーポータビリティ」という制度のスタートが決まりました。これは通信キャリアにとって、業界の勢力地図を塗り替えかねない、非常に大きなターニングポイントでした。

   そこに契約キャリアから、通常の獲得インセンティブのほかに、期間限定で制度のスタート月の「ナンバーポータビリティ」ポートイン(他キャリアからの移行獲得)件数の関東圏実績上位10社の代理店に、最高数百万円の特別インセンティブを付くことが、T 社に通知されたのです。

   大所も含めた他の代理店が皆、通常の販売体制の中で「ナンバーポータビリティ」獲得にも取り組んでいくという情報を聞きつけたT社のY社長は「ここぞ最大のチャンス!」と、戦略チームの立ち上げを命じました。

   その内容は、法人営業課長をプロジェクトリーダーとする10人でチームを編成して、各店舗の店頭営業、法人取引先営業、地域ローラーなどを戦略的に展開。通常とは異なる1か月限定の短期決戦体制で積極的に「ナンバーポータビリティ」を獲りに行き、関東圏ナンバーワンを目指すというものでした。

「下剋上」を許した悔しさがバネ

   短期決戦での必勝を期して、戦略チームを組んだ作戦は大成功。関東圏で初めての1位を獲得し、数百万円のインセンティブを手にすることができたのです。

   Y社長は、

「大学のサッカー部時代に、短期決戦は人の貼り方も攻め方も、リーグ戦とは違えてそれ用に考え意識した対応をとったチームが絶対的に有利と知りました。トーナメント大会で、連戦で疲労ぎみの我がチームに、短期決戦用の休養十分なメンバー構成で望んだ格下の相手に負けた悔しさで学んだのです。スポーツでもビジネスでも、戦いの場では長期には長期、短期には短期の戦い方があるわけです。大学時代の悔しさを今ようやく晴らした気がしますよ」

と満面の笑みで話してくれました。

   長期戦ではなかなか勝てない相手にも、通常とは異なる短期戦略を繰り出してぶつかるなら、思わぬ勝利もありうる。中小企業のような相対的弱者とっては、知っておいて損のない話ではないかと思います。

   日本シリーズでセ・リーグの絶対的王者、広島カープに挑むソフトバンクホークスがどのような戦略的戦い方をするのか、ちょっと楽しみにしています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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