2018年 12月 17日 (月)

口出しはほどほどに! 円滑な事業承継には社長はポンコツがちょうどいい?(大関暁夫)

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   3年ほど前に60代半ばを迎えるにあたり、自社の部長を務める娘婿に事業承継を打診するも、「自分は経営者の器ではない」と辞退された中堅機械メーカーG社のT社長。その後、できれば会社を外部の人手に渡すことなく社内で後継を育てていきたいと、専門機関の事業承継セミナーなどに足繁く通い、いかにして社員への経営のバトンタッチを上手に運ぶべきかについて勉強に勉強を重ねてきました。

   娘婿を含めた周囲が認める社長後継最有力候補のH取締役に代表権のある副社長就任を打診。(2018年)4月からは「社長=副社長」の、いわゆる2頭体制をスタートしました。

   これまでの基本的な社長業務はH副社長に権限委譲して1年かけてバトンタッチを進め、T社長が70歳の大台に届く前の来春にはそれを完了させる。自身は代表権のない会長職に退き、完全リタイアに向けた準備をするとの展望を、新体制スタートの折には話していました。

  • 口出ししないで!
    口出ししないで!

「事業承継というヤツは本当に難しい」

   新体制スタートから半年が経ち、その後の事業承継の進捗がどのような様子か聞きたく社長にアポイントを入れました。するとT社長は電話口で、「相談したいことが山ほどあるので、すぐにでも来てほしい」と何やらお困りの様子が。そして数日後、お目にかかるやいな社長の口をついて出た言葉は、「相手のある事業承継というヤツは、本当に難しい」でした。

「H副社長は技術者として大変優秀であるし、リーダーシップもあり、彼以上の後継候補は見当たらないことに変わりありません。しかし、この半年2頭体制でやってきて、技術と開発面は順調な権限委譲ができているが、肝心のマネジメント面がうまくない。彼は人一倍リーダーシップがあると見ていたのですが、実際に最終決定権者のポジションに立たせるとどうもフラフラして、自分でモノが決められないのです。
これでは社内がHくんを中心に回っていきません。それどころか、このままだと来春はおろか死ぬまで私が社長でいなくてはいけなくなりそうで、そんなことでは会社は私と共に滅びてしまいます」

   この話を聞いて、たまたま少し前に読んだ海外からのレポート記事を思い出しました。それは、米ハーバードケネディスクールでリーダーシップ論を長年担当しているロナルド・ハイフェッツ氏が、著書「最難関のリーダーシップ ~変革をやり遂げる意志とスキル」の中で、変革につながる権限委譲を妨げる2要因として、「技術的問題 Technical Problems」と「適応課題 Adaptive Challenges」を挙げて説明しているものでした。

社長にモノを言えないつらさ

   「技術的問題」は、「複雑で難解な場合もあるが、基本的に解決策がわかっており、既存の知識で対応可能である」と。すなわち、必要な知識やスキルを身につけていれば、基本的には対処が可能であるということです。

   一方の「適応課題」はと言うと、「その人の優先事項、信念、習慣などを変えなければ対処不能である」と、何やら難しげなことが言われております。噛み砕いて言うと、「適応課題」は知識やスキルだけでは対処できず、その解決には自身自身を変える必要がある、ということになります。

   T社長が事業承継に向けて着手したH副社長への権限委譲は、ハイフェッツ氏が言うとおり「技術的問題」は解決したものの、「適応課題」はやはり難しく、半年を経過した段階では未解決状態にあると言えそうです。つまりはH副社長の「信念、習慣」などが変化しなければ、G社のトップ交代による事業承継はうまくバトンタッチができない、ということになるのです。

   この話を思い出しながら考えた私は、社長の経営バトンタッチに向けたお悩みはよくわかるものの、聞く限りこれはどこまで行っても後継たる副社長の意識改革待ちしかないという結論を置きました。

   そんな話を終えて社長室を出た時に、たまたま顔見知りの総務部長に出くわしたので、立ち話で総務部長から見た後継者候補としてのH副社長の評価を聞いてみることにしました。すると部長からは思いがけない、重大な情報がもたらされたのです。

「ここだけの話ですが、副社長はかわいそうですよ。社長は『今後はすべての決定を副社長に任せたから、すべて彼の指示に従うように』とわれわれ幹部社員にも公言したのですが、実際にはどうかと言うと、何かにつけてアドバイスと言いながら、ついつい意思決定にかかわる口出しをしたり、あるいは先回りで社長が動いてしまうから、社長がつくった流れを副社長は変えようがなかったり。あれでは副社長は自分の意思を通しようがないと思います。副社長もわれわれも、そこは思っても社長に言えないところがつらいわけですけど......」

なんでもオレオレ 社長、アナタが阻害要因です

   総務部長は常に冷静に物事を見ている人なので、彼の話はおそらく核心を捉えていることでしょう。

   となると、G社の事業承継における「適応課題」解決の阻害要因は、じつは社長にこそあったという話になるのです。つまり、社長の「習慣」、最終的に決定に関わらないと満足できない、自分で動かないと納得できないことなどが副社長の行動変革を阻んでいたといえそうです。

   前述のハイフェッツ氏によれば、「適応課題」の阻害要因の解決法は、権限委譲を阻む行動をとっている、心に潜む本当の理由を考え、それを意識させて「習慣」を改めさせることであると。

   容易に想像がつく、T社長のような権限を委譲する側の経営者が口出しする理由は、「皆から役に立たない、老いぼれのポンコツだと思われたくない」ということでしょう。

   長年の実績をもってすれば、そんな心配は不要なはずなのですが、なぜかそうなってしまう。G社のスムーズな事業承継に向けて今一番必要なことは、社長が「ポンコツだと思われてもいい」と開き直れるか否かなのかもしれません。

   世の長期政権が続く企業における事業承継の不調の陰には、似たケースがかなり多いのではないでしょうか。近々T社長を再訪して、「社長ポンコツ化のすすめ」をじっくり話してみたいと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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